04.可愛い弟です……?
乱暴に涙を拭い、何事も無かったかのように口を開く。
「…………もう、わたくし達は戻れないわ」
「ラヴィ……!?」
(あっ!これ台詞じゃないかも……ラヴィーニアの気持ちだったかもしれない)
「……あっ、その」
「ごめん、僕のせいで……」
このまま話を続けても悪い方向に行ってしまう。
もう、こうなったら強硬手段を取るしかない。
「他の方とお幸せに……サヨナラッ!」
「待って……!!」
そう言って、背を向けて駆け出した。
台詞一つ、まともに言えなかった。
情けなくて、また涙が出そうである。
(ラヴィーニア……ごめんなさいッ!)
そのまま逃げるように、公爵家の馬車に向かった。
そこにはラヴィーニアの弟……フィン・ロンバルディが居た。
今日は確か図書館に行くと言っていた筈なのに。
たまたま帰りが同じ時間だったのだろうか。
ミントグリーンの髪に金色と青のオッドアイ。
ラヴィーニアと顔が似ているので見た目だけは好きである。
エメラルドルートであるフィンはツンデレだけど男前。
そんな情報しか持っていない。
簡潔にまとめるとルビールートのアルノルドは遊び人でヤンデレ。
ダイアモンドルートの第一王子は俺様でドS。
サファイアルートの王家の影は腹黒で可愛い系。
隠しキャラもいるようだが、詳しくは知らないという役立たずっぷりである。
こんなことならばラヴィーニア以外のところも、しっかりチェックしておけば良かった。
そんな事を考えていると、フィンが苛々した様子で此方を睨みつける。
「…………ちょっと!僕を待たせるなんて、どういうつもり?」
「……」
「さっさと乗りなよ、帰れないだろ!?」
顔を歪めたフィンが不機嫌そうに言い放つ。
此処からはシナリオには無いので、ラヴィーニアがラヴィーニアらしく毅然と対応しなければならない。
馬車に乗り込むと静かにドアが閉まる。
フィンを大分待たせてしまったようだ。
そう思うと、申し訳なくなってしまう。
「……フィン、ごめんなさいね」
「はぁ……!?」
「え……?」
「姉上が謝るなんて…………明日は槍でも降るの?」
「!?!?」
まさかラヴィーニアが謝ると槍が降ると思われるなんて予想外である。
「もしかして姉上……泣いたの?」
「ち、違うわ……!」
「…………だって目元が」
赤くなった目元を隠すようにヘラリと笑う。
「……!?」
(誤魔化せたかしら……)
フィンは此方を観察するように見ている。
「…………本当に姉上なの?」
「……!?」
「魔法で誰かが化けてるとか……?」
完全に疑われてしまった。
狭い馬車の中ではアルノルドの時のように、上手く誤魔化す事も、逃げ出す事も出来ない。
ゲームの中では、家で過ごすラヴィーニアの様子は見れないし、これ以上どうすれば良いのだろう。
下手な言い訳をした所で墓穴を掘るばかりで、家族であるフィンの目は誤魔化せない。
だが、幸いにもラヴィーニアの昔の記憶があった。
もちろん、フィンと過ごした仲の良い日々もキチンと思い出せる。
しかし今は仲も悪く、姉弟仲は拗れてしまっている。
思春期だからだろうか。
昔はフィンとずっと一緒に遊んでいた記憶があるのに。
攻撃的な視線を送るフィンにゴクリと生唾を飲み込んだ。
さすが魔法の天才と言われるだけの事がある。
ビリビリとした圧力が肌に刺さっている。
頭をフル回転させながら考えていた。
どうすれば、この場をうまく切り抜ける事ができるのか。
「フィンは覚えてるかしら……」
「…………何を?」
「十年前、フィンがお漏らししちゃった時の事を……」
「な゛ッ……!!?」
「侍女にバレないように、二人で頑張って洗濯したわよね……懐かしいわ」