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39.嵐がやってきました


ビアンカは体が弱い為に他人との接触をなるべく控えるように国王から言われており、寂しかったのだという。

そして転生者同士でもある事から話も弾み、一緒に居るのが当たり前になっていった。


最近、王女であるビアンカとラヴィーニアが、いつも一緒に居る事が多い為、学園中の話題である。


ラヴィーニアの側にビアンカが常にいる事で、エレナは今までのように動けなくなっていた。

そして、フィンルートを熟知しているビアンカの先回りの防御により、上手くシナリオが進まずに苛々した様子を見せていた。


そんなある日、ラヴィーニアに対する嫌がらせがピタリと止んだ。

それが嵐の前触れのような気がしてならなかった。


(お腹空いたなぁ……)


次の授業は確か移動しなければならなかったはずだ。

教科書を準備していると、聞き覚えのある声が背後から聞こえて振り向いた。



「…………ラヴィーニア」


「え……?」


「来て」


「……ッ!?」



どこからか急に現れたアルノルドに、いきなり腕を掴まれて痛みに顔を顰めた。

助けを求めようと辺りを見回した。


今日、ビアンカは体調不良で学園を休んでいた。

ディーゴは他の任務があり学園へ遅れてくると言っていた。

その代わりに他の影が付いているらしいが、どこにいるかは分からない。


頼みのフィンはエレナに捕まっていて、此方を向いていない。

誰もラヴィーニアとアルノルドを見ていない。


(……どうしよう!)


抵抗も虚しく、アルノルドによって瞬く間に人気のない場所へと連れて行かれてしまったのだった。



「やめてください……っ!」



アルノルドが至近距離まで迫る。

いつの間にか後ろには壁があり逃げ場は無い。


涙目でオロオロする姿を見て、アルノルドはとても嬉しそうに微笑んだ。

久しぶりに見たアルノルドは、以前より少し痩せたように思えた。



「ラヴィ……今更こんな事言うのはおかしいって分かってる」


「いやっ……離して!!」


「でも、僕の話を聞いてくれ……!」



(ーー私の話も聞いてくれ!!)


そう心で突っ込みを入れても口には出せない。



「もう一度、僕と婚約してくれないか?」


「っ!?」


「今の君とならやり直せる……そうだろう!?」


「………!!」



肩を掴まれて必死に訴えかけるアルノルドの焦点は合っていない。

瞳はどこか遠くを見ている。

それが怖くて堪らなかった。


しかし、小さく首を振る。


それに憧れのラヴィーニアを否定する言葉は許せない。

こんな美しく素敵な婚約者がいながらも、他の女に手を出したのはアルノルドの方だ。


(負けるな、気を強く持って……!)


抵抗しようと声を上げた。



「もう私達は何の関係も……ンンーッ!?」


「それ以上……言わないでよ」



大きな手で口を塞がれて、焦ってジタバタと暴れ回る。



「ッ、他の奴らには絶対に渡さない!!!」


「っ!!」


「君の事なら全部知ってる…………だから、まだ戻れる」


「!?」


「僕の元に……戻ってきてくれるでしょう??」



アルノルドの手首を掴み、ゆるゆると首を振ろうとするが、それを許さないとばかりに力が強まる。



「何で……?」


「ッ!」


「こんなに、こんなに好きなのに……!」


「嫌っ……!」



アルノルドが泣きそうになりながらも必死に訴え掛けてくる。

力が弱まった瞬間に、思いきり胸を押して距離を取った。



「……っ、どうして」



自らの顔を覆い、ぶつぶつと何かを呟いている姿は、いつものアルノルドではなかった。


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