34.貴女の秘密を知っています!?
ラヴィーニアの性格が変わった後は、焦らしプレイを勝手に楽しんでおり、たまに殴られるのも、結婚を拒否されるのも、本人は嬉しいらしく、こうしてストーカー行為を繰り返す残念なイケメンである。
ディーゴは、王太子であるステファノに付くことが多いが、幼い頃から自然とジューリオの世話もしている。
ディーゴにとっては慣れたものだが、普通の感性ならばジューリオを理解する事など、まず出来ないだろう。
「エレナとエミリーの様子は?」
「…………エレナ?エミリー?誰ですか、それ」
「ラヴィーニアにちょっかい掛けてる女二人だよ」
「あぁ……害虫の事?」
ジューリオは平然と言い放つが、明らかに声のトーンが落ちている。
「金色のはいつも通りかな……緑色のが危ないかもね」
金色はエレナで緑色はエミリーなのだろう。
「危ないって……どういう意味だよ」
ジューリオは持っていた双眼鏡を置いて、唇を歪めながら此方の方へクルリと椅子を回し、向き直る。
「珍しいですね、ディーゴ」
「…………何が」
「もしかして任務以外で動くつもりですか?あの血も涙もないディーゴが?」
「…………」
「あは、面白いもの見ちゃったな」
ジューリオは楽しそうに笑っている。
ディーゴの任務は、秘密を漏らさないように裏で手を回す事、そしてステファノとの距離を縮める事。
そしてラヴィーニアを守る事だが、実質的な危害がない場合、護衛の対象には入らない。
間接的な嫌がらせなどは、ディーゴの仕事には含まれてはいないのだ。
「まだ決定打も、証拠も無い。確実に手を出していない害虫を駆除しようとするなんて……君も兄上と一緒に絆されちゃったんですか?」
「チッ……」
普段はふざけているように見えて、ジューリオは本当に良く人を見ている。
底知れない才能にディーゴも良く冷やりとさせられるのだ。
「あ、あと……姉上が動くかもしれませんよ?」
「ビアンカが?何故、今更……」
「さぁ、私には分かりません。メリーなら何か知っているんじゃないですか?」
「……メリーに聞いてみるか」
「ラヴィーニア様の周りを暫く嗅ぎ回っていたみたいだし」
「……めんどくさい事にならなきゃいいが」
今まで動かなかったビアンカが動くとなると、自分も立ち回りを変えなければいけない。
「目的は何だ?」
「姉上の視線の先を辿れば簡単に分かるんじゃないですか……?」
「……マジか」
「姉上がどう動くのかは分からないけど私の予想だと、もうそろそろ接触するんじゃないんですかね?」
*
「…………わたくしは貴女の秘密を知ってるわ」
「……はい?」
「着いてきなさい……」
同じクラスでも、今まで関わりのなかった王女であるビアンカに呼び止められて固まるしかなかった。
ビアンカは此方に鋭い視線を向けている。
フィンに視線で助けを求めるが「ラヴィーニア様」と再び名前を呼ばれて眉がヒクリと動く。
こんな時に限ってディーゴは何処かに出払っていた。
必死に表情を抑えて、首をカクリと傾ける。
「秘密、とは……?」
冷静に聞き返せた自分を褒めてあげたいと思った。
「…………付いてきて頂戴」
クルリと踵を返したビアンカの後について行こうとすると、フィンがそれを引き止める。
すると、それに気づいたビアンカがフィンを制止する。
「……ビアンカ王女」
「ラヴィーニア様に大切な話があるの」
「…………」
「殿方の前ではとてもお話出来そうにないの、ごめんなさいね」
「……。はい」
ビアンカに直接言われてしまえば下がるしか無い。
フィンが心配そうに此方を見つめていた。
とりあえずフィンを安心させるように頷いた。
不安な気持ちを抱えながらビアンカの後について行った。