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31.影は思っています


そんな捨て台詞を吐いて、エミリーは人混みを掻き分けて教室から出て行ってしまった。


結局何が起こったか分からずに、去って行ったエミリーの背中を見送ったのだった。

そんな一連の様子を見ながらディーゴは考えていた。


(……そろそろ釘を刺すべきか?)


これは学生の冗談にしては、悪質なものばかりだ。


けれど決定打はなく実質的な被害もない為、歯痒い思いをしていた。

何よりラヴィーニア自身がエレナとエミリーの行動をマイナスに取らず、気にしていないので動く事が出来ない。


そしてエレナは間違いなく、ラヴィーニアを貶めようとしている。


最近、エレナとエミリーはラヴィーニアに対して有りもしない罪をなすりつけようとしてくる。


人を一ミリも疑おうとしないラヴィーニアは全くと言っていい程、エレナ達の悪意に気づいていない。

彼女がどんな思考回路をしているのかディーゴには到底理解出来そうになかった。


(これだけの事をされているのに……何故)


それにラヴィーニアは何かにつけてフィンとエレナを近付けようとしているのだ。

エレナも何か目的の為にラヴィーニアを使っているような気がしてならなかった。


そんな事にも気付かないのか、エレナとフィンの関係を取り持ち満足気である。

明らかにエレナの行動はエスカレートしているというのに……。


そしてラヴィーニアもラヴィーニアらしくすることに慣れて周囲を見る余裕が出てきたのか、困っている人を見ると、直ぐに手を差し伸べようとするのだ。


始めは止めていたが、次第にバレない範囲ならばいいかと黙認していた。


やはり内側から滲み出るオーラは隠せないらしく、ラヴィーニアを慕う生徒達も増えていた。


"失くしものを一緒に探してくれた"

"落ち込んでいる時に優しく声を掛けてくれた"

"悩みを聞いてくれた"


毎日地味ではあるが、ラヴィーニアは無意識に善行を繰り返す。

ただの甘い物好きの能天気だと思っていたが、いい部分もあり最初の印象とは変わってきていた。



「エミリー様……誰かに騙されているのかしら?」


「……」


「ディーゴはどう思う?」


「……ラヴィーニア様、元に戻ってますよ」


「ハッ……!!」



ディーゴの言葉でキリリとした顔を作り直したラヴィーニアは姿勢良く椅子に腰掛けながら、何事も無かったように本を読み始める。



「ジューリオ殿下に教科書を借りるのではないんですか……?」


「あっ……そうだった」



全言撤回、やはり只の阿呆である。



「……ディーゴ、いつもありがとう」



耳元で小さく御礼を言ったラヴィーニアはニコリと微笑んだ。



「…………はい」



ラヴィーニアと共にジューリオが居る教室へと向かう。

嬉しそうにラヴィーニアに抱きつこうとするジューリオを押さえながら、なんとか教科書を借りる事が出来た。



「良かったわ……!」


「……?」


「教科書をボロボロにされたら悲しいし、大変だもの」


「…………」


「もし、何か嫌がらせを受けているなら解決すると良いのにね」


「そう、ですね……」



ラヴィーニアはニコニコと微笑んでいる。

こうしてラヴィーニアと行動する時間が増えていくと毒気や緊張感がどんどんと抜けていくように感じた。


あまりの鈍感さに、突っ込む気力すら起きない。


あのステファノですら、簡単に変えてしまったのだ。

ラヴィーニアと共に子犬を助けた事がキッカケで、ロンバルディ家に足繁く通うようになったらしい。

それからというもの、いつも緊張感が漂い、周りを警戒しすぎてギスギスしていたステファノの雰囲気が柔らかくなり、周囲との関係が円滑になった。


最近では御令嬢達とも上手く話せるようになってきたようだった。


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