03.自己嫌悪が止まらないんです
とりあえず、急いでシナリオを補正しなければならないし、ここでラヴィーニアとアルノルドは仲直りをしてはならない。
(アルノルドにはヒロインに惚れてもらわなければ……)
ルビールートでのアルノルドは、女性と遊ぶ事で寂しさを紛らわしていた。
けれどヒロインに出会い、愛を学び、心変わりをして徐々に執着していく……というものだった。
そんなアルノルドに気高く美しいラヴィーニアの婚約者が務まるとは思えない。
強気な心の声は表に出る事はなく、風のように消えていく。
普段、ラヴィーニアはアルノルドを"貴方"と呼んでいた筈だ。
気合いを入れて声を張り上げる。
「…………あ、あなたは」
「何……?」
「っ!?!?」
さり気なくラヴィーニアにキスをしようとするアルノルドを反射的に突き飛ばす。
この男は本当に手が早い。
そんな幼馴染であるアルノルドを、ラヴィーニアは確かに昔は好いていたのだ。
「……そ、そういう事は本当に愛する人とやるものです」
「僕がラヴィを愛してないとでも言いたげだね」
「えぇ、そうですわ!そう言ってるんです!」
蜜柑の愛するラヴィーニアを放っておいて、色んな女と遊んでいた癖に!と言ってやりたかった。
勿論、言えないのだが……。
「……どうして?」
「へっ……?」
「どうして、そう思うの?」
アルノルドはいつもとは違い、真剣な顔でラヴィーニアに迫ってくる。
今まで画面の中にいた信じられないくらいの美形が目の前に近付いてくるではないか。
慌ててしまい"近寄るな"の意味を込めてバタバタと腕を動かした。
「ちっ、近づかないで~!」
「……!?」
「あのっ……えっと」
「なんか、いつものラヴィじゃない気がする……」
「……ッ」
アルノルドからの疑念の目に本来の目的を思い出す。
(ラヴィーニアの幸せの為に私が頑張らないと!!)
何でも良いから婚約破棄して、慰謝料をブン取ってラヴィーニアを幸せにしてあげなければ!
スーハースーハーと息を整えて、ラヴィーニアらしいキリリとした顔を作り上げる。
「………近づかないで頂戴!!」
「婚約者が近付いてはいけない理由って何?」
「……っ」
「応えろよ、ラヴィ」
「それはですね……あのぅ」
そしてアルノルドに限らず、強く言われると萎縮してしまう。
断れないのもあるが、ラヴィーニアになったところで直ぐに短所が消える訳もなく……。
「……ふ、」
「…………?」
「うえぇ……っ」
自分の情けなさに涙がポロポロと溢れてくる。
さすがのアルノルドもギョッとして慌てた様子を見せていた。
今はラヴィーニアなのに涙が止まらない。
(憧れのラヴィーニアになったって何も変われない……!このままじゃ私がラヴィーニアを台無しにしちゃう!)
どうしていつも上手くいかないのだろう。
(断れなくて、いつも無駄な事を引き受けちゃうし、お店でメニュー決められないし、オドオドしているから人を苛々させちゃうし、よく転ぶし、忘れ物多いし、ドジだし、付き合う人が皆ストーカーになっていくし、それ以外にも何故かストーカーがいるし……!)
こんな自分を変えたいと、いつも願っていたのに結局何も変わらないままだ。
「ごめん、泣かないでラヴィ……僕が悪かったから」
「……っ、??」
「そんなに思い詰めていたなんて、気付かなくて本当に……!」
よく分からないが盛大に勘違いをしているアルノルドに対して首を横に振る。
ただ自己嫌悪に陥っていただけで、決して彼の所為ではない。
勝手に話を進めるのはやめてくれ。
兎に角、これでアルノルドと婚約破棄になるキッカケを作るのだからベソベソ泣いている場合では無い。