28.ナイスフォローです
なんとか一日目の学園生活を乗り切り、馬車の中でホッと息を吐き出した。
邸について、フラフラとソファに倒れ込んだ。
隣に座ったフィンの腰に縋るようにして抱きついた。
「王家からラヴィーニア様を御守りする為に派遣されましたディーゴです」
「…………だッ!?」
「宜しくお願い致します」
黒い忍者のような格好をしているディーゴが目の前で跪いている。
王家から派遣される護衛は、今朝ぶつかったばかりのディーゴのようだ。
「あ、貴方はステファノ殿下の……!」
「はい、本来はステファノ殿下に仕えております」
「……なら、ステファノ殿下には誰が?」
「私の部下が付いております」
「ぶっ……!?」
ラヴィーニアよりも幼く見えるディーゴが、部下を持っているとは意外である。
どこからどう見ても、同じくらいか年下の男の子である。
不思議に思っていたのが分かったのか、ディーゴが固い笑顔を浮かべながら此方を見ていた。
「……私の顔に何か?」
「あっ……ごめんなさい!不愉快でしたか?」
「いえ…………とんでもありません。私達を怖がることはあっても、そのように不思議そうに見られるのは初めてだったもので」
「怖がる……?」
ディーゴは人の良い笑みを常に浮かべている。
話し口も柔らかく受けも良さそうなのに、実は怒ると怖いのだろうか。
ならばディーゴに怒られないように頑張ろうと、心の中で強く思ったのだった。
ラヴィーニアの記憶によれば、王家の影とはどんな残忍な任務でもこなす精鋭が集まる秘密部隊だそうだ。
悪事を影から暴いていくことから、貴族達にも恐れられている……らしい。
しかし今の感覚では、笑顔が素敵な普通の男の子である。
それに王城の料理人が作ってくれたチョコレート(ラヴィーニアが好きな味の詰め合わせ)を持ってきてくれた優しい人である。
食べ物をくれる人に悪い人は居ない。
「学園では今日とはまた違った変装しますね。ラヴィーニア様と同じクラスに在籍させて頂きます。教室ではディーとお呼びください」
「分かったわ!それより、ディーゴは甘いものは好きかしら?」
「は……?えっと、食べられますが」
「今日はチョコレートケーキの日よ!食べながら話しましょう?フィンはバラの紅茶でいい?」
「今後の事を話し合いませんと……!」
「チョコレートケーキに薔薇の紅茶ですか……?僕、普通のストレートで」
「そう?合うと思うけど……ディーゴはどうする?」
「わ、私ですか!?」
「薔薇の紅茶は好き?フィンと同じがいいかしら……?」
「……では薔薇の紅茶で、お願いします」
「まぁ……!私と一緒ね!じゃあミーアに伝えてくるわね」
るんるんと去っていくラヴィーニアの頭の中はチョコレートケーキの事で一杯なのだろう。
珍しく困惑しているディーゴにフィンが肩に手を置いた。
「…………ディーゴに色々と苦労掛けるかもしれないけど、宜しくね」
「大分、噂とは違うようですが……」
「呪いの影響だ。詳しい話は姉上の居ないところでしよう。それから姉上には必要最低限の事だけを伝えた方がいい」
「…………はい」
「以前の姉上とは違って、その……要領があまり良く無いから」
「なるほど」
「まぁ……理由はすぐ分かると思うけど」
「はい」
「さて、ケーキを食べに行こうか」
「…………」
訳もわからずにフィンの後についていく。
呪いの影響で性格が変わったのだと聞いていたが、ラヴィーニアやフィンの人物像は資料の情報とは、かなり違うような気がした。
目の前には仲が壊滅的に悪い姉弟が、今は手を取りお茶をする仲であるという事実があるだけだ。
国王の命令でステファノの護衛を外されたと思いきや、今度は光属性に魔力が変質した御令嬢。
朝はツンとした態度を取っていたが、それは取り繕ったものだそうだ。
それにしても呪いの影響とはいえ、些か能天気すぎるのではないだろうか。
自分の価値を全く理解していない……まるで頭がお花畑だ。
しかし、まだどんな裏があるかは分からない。
とぼけた振りをしているのか、それとも天然なのかは分からないが、暫くは様子見をさせてもらおう。




