22.意味が分かりません
「……ッ!」
「大丈夫ですかっ……!?」
「ああ……この絶妙なパンチ!貴女はやはり素晴らしい女性だッ!!」
興奮しているジューリオをポカンと口を開けて見つめていた。
一周回って、もう理解不能である。
「ラヴィーニア、すまない……」
「…………」
「ジューリオはこういう奴なんだ」
「……ぇ」
ステファノは残念なものを見るようにジューリオを見ている。
「あの……体は大丈夫でしょうか?怪我は!?」
「あ、そういう心配は結構です。もっと汚いものを見るような目で見てください」
「あっ…………無理、です」
先程から断っているつもりなのだが、ジューリオには聞こえてないようだ。
彼は、どこまでも粘り強くラヴィーニアに食らいつく。
どうやら隣国に行っている間、ずっと我慢していたらしい。
そして隣国から帰って来てからも、影の監視が厳しくなり更にフラストレーションが溜まっているのだという。
それが今、大爆発している。
「大丈夫です!人間、やろうと思えば何だって出来るんですから……!」
「そういうのは……ちょっと」
「少しだけでいいんです……!」
「私には無理ですからッ!」
珍しくキッパリと断る事が出来た。
かといって、ジューリオは引いてくれる訳ではないが。
「私の何が悪いんでしょうか……?この見た目ですか!?」
「いえ、そんな……」
見た目じゃなくて性格です……そう言おうとして口を閉じる。
そう言うと、ジューリオは静かに眼鏡を外し、重たい前髪を掻き上げる。
「誰だ…………?」
「ま、まさか……ジューリオ殿下!?」
「ラヴィーニア様、これならどうですか!?」
「……嘘だ」
長い睫毛が開き銀色の瞳が見えると、そこに居たのはキラッキラと輝く、まるで別人のようなジューリオの姿があった。
同一人物だとは思えない変貌ぶりに、愕然としていた。
ステファノも十分イケメンだが、ジューリオのロイヤルなオーラは眩しいほどである。
好青年なのだが体格も良い為、迫力がある。
「ジューリオはこういう奴なんだ」
「「…………」」
どうやら"前髪の下はイケメン"だという予想は的中したようだ。
こうも予想通りだと「やっぱりな……」と冷静な気持ちで受け止められる。
けれど、爆笑は出来そうになかった。
ジューリオがツンとした女性を求めていても、この外見だと御令嬢に沢山言い寄られてしまう……それにウンザリしていた彼は、前髪で目元を隠すという方法を覚えた。
すると一気に興味が向かなくなった為、この姿で過ごしていたのだという。
外見は完璧すぎるのに、性格が残念なだけに何とも言えない気持ちになった。
そしてこの素顔を見ていると、徐々に蘇ってくる記憶。
このキラキラと輝く顔面には見覚えがあった。
そして、この容赦のないパンチの理由も……。
まだ幼い頃、ラヴィーニアにストーカーしていたどこかの令息が居た。
その時は銀色の髪では無かったが、変装でもしていたのだろう。
眼中に無かったが、しぶとくて、しつこかった為に、ラヴィーニアは見えない所で何度も殴り飛ばしていた。
そして踏み付けて「二度と近づくな」と牽制していたのだった。
アルノルドと婚約してからは会わなくなったが、ラヴィーニアの前に姿を変えて、何度も現れた男の子の正体は、もしかしてジューリオだったのだろうか。
先程も無意識に体がに動いて、反射的にジューリオを殴り飛ばしていた。
そんな彼はキラキラした瞳でプロポーズする。
「私と、結婚してください……!」
「……あの、ジューリオ殿下」
「婚約を破棄した今、もう貴女を諦められそうにありません!!好きです無理です!」
「いや、意味わかりません……!」
こうしてジューリオ限定でキッパリとした意思表示のやり方を覚えたのだった。