21.言い訳をさせて下さい
そして以前のラヴィーニアのようなツンとした表情を作る。
「…………邪魔よ、そこを退きなさい」
「「おー……!」」
フィンとステファノから歓声が上がる。
その声に気を良くして更に続けて言った。
「邪魔だと言っているのが聞こえないの……?」
「上手いですね、姉上」
「えへへ~」
「確かに……ラヴィーニアだな」
ラヴィーニアがラヴィーニアの真似をするという訳の分からない状況であるが、それでも憧れのラヴィーニアに近づけた様な気がして嬉しかった……そんな時だった。
「ーーーラヴィーニア様ッ!!!」
どこからともなく聞こえるのは……
「ジューリオ殿下!?」
「ああ……ついに、ついにお戻りになられたのですか!?元に戻ったのですか!?!?」
跪き、手を撫で回すジューリオ。
彼は恍惚とした表情で手に頬を擦り寄せている。
「おい、ジューリオ……いい加減にしろっ!」
「あ、兄上居たんですね」
「お前なぁ……」
フィンが急いでジューリオを引き剥がす。
あまりの衝撃に動けずにいた。
ジューリオに握られていた手は、そのままの状態で固まっている。
「姉上、大丈夫ですか……!?」
「…………ひゃい」
「ジューリオ……!これ以上失態を重ねる前に城に帰れ」
「いいえ、帰りません……!今まで散々焦らされたんです!!今日こそはラヴィーニア嬢に罵って蹴り飛ばしてもらうまでは帰りませんからッ!!」
「ののし……ッ!?」
キラキラした瞳を向けて此方を見るジューリオに、周囲は引いていた。
「お前な……隣国に行って、その性格を直してこいと言われただろうが!!」
「直りません」
「だろうな……」
どうやらこれがジューリオの通常運転のようだ。
罵ってもらうのが好きなのだろうか。
戸惑う二人に、ステファノが説明をする為に口を開いた。
昔から女性に冷たくされると燃え上がる性質らしい。
絶妙な力加減が必要で、余りにも拘る為に令嬢達から嫌厭されていたジューリオは、心も体も割と丈夫だった為、矯正の意味も含めて隣国へと送られた。
けれど、帰ってきたのは紳士の皮を被れるようになっただけの、ただのジューリオだった。
そして以前のラヴィーニアのようなツンとした女性の好みは全く変わらなかった。
ラヴィーニアに婚約者がいた時は、他の女性に迫っていたらしいが、全員に振られてボコボコにされたらしい。
「貴女のような女性は貴重ですから、性格が変わったと言われた時は絶望しました……ッ!!!!」
「ひっ……」
「でもたまに……そう!!たまにで良いんです!以前のように罵って頂けるなら問題ありません」
「…………へ?」
「是非、私と結婚を前提にお付き合いしてください……!」
「……!!」
「はぁ!?」
「なっ!?」
ジューリオが手を引き、抱き締めようとした瞬間……
ーーードコッ!!!
言い訳をするならば、それは体に染み付いたものだった。
「……っぐは!!?」
「きゃああぁああっ!ジューリオ殿下ッ!!」
自分の拳が、思いきりジューリオを殴り飛ばした。
そしてその現状に驚き、悲鳴を上げたのもラヴィーニア自身だった。
殴った本人がビックリするという、まさかの事態だ。
ジューリオは地面に横たわりピクピクしている。
「…………ど、どうしましょう!!」
「海に投げ捨てれば……?」
「フィン、冗談はやめて!!ジューリオ殿下、申し訳ございませんっ!!」
パニックである。
体が勝手に動いたとはいえ、王族相手に有り得ないことをしてしまった。
頭に浮かぶのは『 処刑 』の二文字である。
「あぁあぁ、ジューリオ殿下……!死なないでぇ」