02.全然上手くいきません
「……ラヴィーニア、君は」
「はっ、ごめんなさい……!」
謝るとアルノルドが不思議そうに此方を見つめていた。
(しまった!こんな事をしている間にシナリオから外れてしまう……!)
急いでラヴィーニアの台詞を思い出す。
(これは学園に入学する前に、ラヴィーニアがアルノルドに女遊びをやめるように指摘した事で、二人の間に溝が生まれるから……)
よくよく考えたらアルノルド最低じゃないか……と思いつつも、次のラヴィーニアの台詞を思い出していた。
先程アルノルドはラヴィーニアに「もうウンザリだ」と言った。
だから次は……
「あ、あら……そうですの」
「……!」
「わたし、あっ……わたくしは、アルノルド様の為を思って申し上げたのですっ!!」
「…………ラヴィーニア」
「ならもう、わたくしからは……何も申し上げることはごじゃいましぇんわッ!!」
「……」
「ッ!」
ビシッと決めようと思った矢先のコレである。
唖然としているアルノルドを見て、とても焦っていた。
(お願いだから、早く終わって……!)
この後のアルノルドは「……そうか」と言って、ラヴィーニアの前から去っていく流れだ。
顔を伏せて、アルノルドがこの場から立ち去るのを待っていた。
「…………そう」
アルノルドが低い声で呟いた。
心の中でガッツポーズを取る。
取り敢えずはシナリオ通り、婚約破棄に近付けたのではないだろうか。
安心して顔を上げようとした時だった。
「…………君の本当の気持ちは分かったよ」
「……へ!?」
なんとアルノルドに抱き締められているではないか。
臙脂色の髪がサラリと頬に掛かる。
急に近付いた距離にラヴィーニアは戸惑いを隠せずに、目を見開いて固まってしまう。
シナリオから外れてしまったアルノルドの台詞と行動にパニックである。
そもそも、ラヴィーニアの気持ちって何だろうと考えていると……。
「そこまで僕の事を考えてくれていたんだろう……?」
「ちっ、違います!」
「……ごめん、そんな事にも気付かなくて」
「アル様、離してください……っ!」
「また名前で呼んでくれるのか?ラヴィ」
「…………ッ!!」
無意識にアルノルドの愛称を呼んでしまった。
ラヴィーニアは昔、アルノルドの事をアル様と呼んでいた。
そしてアルノルドはラヴィーニアの愛称であるラヴィと呼び返したのだ。
(……こんな時ラヴィーニアなら、なんて言うの!?)
必死にラヴィーニアが言いそうなセリフを思い浮かべる。
「は、はしたないですわよ!!」
「そんな事を言って……また僕を遠ざけようとしているの?」
アルノルドルートではラヴィーニアが婚約破棄されるのだが、原因はアルノルドにあるという事を周囲に知らしめた事で、ラヴィーニアはコスタ家から貰った慰謝料で幸せに暮らしたと書いてあった。
ここが普通の悪役令嬢と違うポイントである。
ラヴィーニアは聡明で頭が良いのだ……自分と違って。
アルノルドがヒロインと結ばれるルートが、蜜柑的なラヴィーニアにとってのハッピーエンドである。
しかし、このままアルノルドがヒロインに選ばれなければ、普通にアルノルドと結婚しなければならないのだろうか?
ヒロインがルビールートを選ばなかった時のラヴィーニアの行動はゲームに出てくる訳もなく……。
(全然わからない……!!)
ヒロインが出てくる前に勝手に婚約を解消するように、動けばいいのでは?
でも、そうするとヒロインが困るだろうしシナリオがぐちゃぐちゃになってしまう。
じゃあヒロインがアルノルドを選ばなかった場合は、この浮気男とずっと付き合っていかなければならないのだろうか。
脳内会議が始まったが意見が纏まらずに、頭が爆発しそうである。