16.よく分からないデートをしています
ジューリオは相変わらず、もさっとした重い前髪に今日は分厚い眼鏡を掛けていて更に目元が見えない。
思わず、前が見えているのか聞きたくなってしまう。
けれど薄い唇や高い鼻などのパーツが、整っているような気がしなくもない。
こんな髪型をしているが"実はイケメンでした"とか言い出したら爆笑である。
もしかして人と目を合わすのが、恥ずかしいのかもしれないと勝手な想像を膨らませていた。
エヴァとルドヴィカに"変わり者"と聞いた事もあり、少し警戒していたが、ジューリオは至って普通だった。
ジューリオが予約したカフェに行き、美味しいケーキを食べて話をしていたのだが……。
「……やはり変わってしまったんですね、ラヴィーニア様」
「え……?」
カタン、とフォークが音を立てる。
「実際に見るまでは信じられませんでした。貴女が変わられてしまったなんて……!」
「……!」
突然、ジューリオの声が少し低くなったように感じた。
感情が昂っているのか、フォークを持つ手が微かに震えている。
「ーーー以前の貴女は孤高で、とても気高くて……!私をゴミのように見下してくれて……本当に、本当に最高だったんです!」
「……??」
(ゴミのように見下されるのが最高……?)
矛盾した言葉の意味を考えていると、彼は更に言葉を続けた。
「貴女に見られていると思うだけで、ゾクゾクしてッ!!それが今じゃ、こんな能天気に……!前の貴女はそんなにヘラヘラ笑う人ではなかったのに」
(ゾクゾク……?もしかして、寒気がするのだろうか……?)
早口で何を言っているのか、よく聞き取れない。
心の中で突っ込みを入れてみるものの、話が噛み合わない。
確かに以前のラヴィーニアは、あまり笑うキャラでは無かったかもしれない。
「そ、そうですね……!」
「隣国へ行っている間に、こんな事になってしまうなんて!」
「……えっと」
そしてジューリオは以前のラヴィーニアが、どれだけ素晴らしく、強く、気高い存在だったのかを一生懸命語っていた。
しかし自分も同じ事を思っているので、いわばジューリオとは同志である。
(共感しかないわ……!!!)
勝手に感じる親近感……ジューリオの話に合わせるように、うんうんと頷いた。
ラヴィーニア大好き勢としては嬉しい限りである。
そんな素晴らしいラヴィーニアを、出来れば自分も遠くから見守りたかった。
「……貴女には、ガッカリしました」
気持ち的には「そんな事言われても」である。
ラヴィーニアを慕う気持ちは、とても理解できる。
けれどガッカリされても、どうしてあげる事も出来ないし、どう頑張ってもラヴィーニアのようには振る舞えない。
ケーキを口に運びながら、早口で話し続けるジューリオが落ち着くのを待っていた。
適当に相槌を打ちながら、にこやかに「そうですねぇ」と返事を返していた。
「……なんで、どうして反論しないんですかッ!?」
「その通りですし、特に反論する事もありません」
「…………!」
中身が蜜柑であるが故に、阿呆で能天気でヘラヘラ笑うのもジューリオの言う通りである。
それにしてもジューリオと共に来たカフェのケーキはとても美味しく、頬が蕩けそうである。
予約を取らなければいけないくらいなのだから、人気店なのだろう。
(折角だから家でも食べたいわ……買って帰りましょう!)
ここのケーキをお土産に買って行ったらルドヴィカもディエもフィンも喜ぶだろう。
「……あの、お土産にケーキ買ってきても良いですか?」
「…………!!」
「……?」
「…………」
「もしかして、ジューリオ様も誰かにお土産買いますか?でしたら、一緒に選びに行きましょう」
「いや、私は……」