14.チョコレートは美味しいです
「とりあえず、チョコでも食べませんか?」
今まで空気だったジューリオが、突然口を開く。
皆の視線が彼に集中する。
ジューリオはギスギスした空気の中、チョコレートを口に放り込み、もぐもぐと食べている。
重たい前髪のせいで顔の表情や、目元が見えないのが気になるところだ。
そして「はい、どうぞ」と、ジューリオからチョコレートを分けて貰い……。
とりあえず、食べたのだった。
「…………むっ!!!」
口の中でチョコレートがとろとろと溶けていく。
味の説明を受けながら、ジューリオから次々に渡されるチョコを食べていた。
「ん~!」
「やっぱりチョコレートは最高ですねぇ」
「ですね~」
「「「…………」」」
先程のギスギスとした空気が嘘のように和やかな雰囲気が流れる。
二人でチョコレートを頬張りながら、暫く幸せに浸かっていた。
「美味しかったですね!では僕は忙しいので、これで失礼します」
「はい、ありがとうございます!ジューリオ殿下」
「あ、ラヴィーニア嬢……美味しいカフェがあるんですが今度ご一緒にいかがですか?」
「わぁ……是非行きたいです」
「分かりました!予約しておきますね」
「「「……」」」
そのまま席を立ち、颯爽と去っていくジューリオを見送った。
圧倒的な一人勝ちである。
「フィン、見て見て!このチョコレートがね、一番美味しいのよ?」
「どれですか?」
「この白いの!でもフィンの口に合うのは……絶対、コレね」
「ありがとうございます、姉上」
「ふふっ!どう??」
「ん……美味しいです」
「でしょう?今度はコッチも食べてみましょう!」
唖然とする二人を置いて、フィンとチョコレートを楽しんだのだった。
その後、部屋に戻って考え込んでいた。
結局、アルノルドに苛々してチョコレートを食べて帰った記憶しか無い。
ジューリオと美味しいカフェに行く約束をしたが、どうでもいい二人はどうでもいい感じに放置してしまった。
(ま、いっか……!)
ふかふかなベッドに寝転んでいると、全てがどうでもよくなってくる。
そのまま何も気にする事なく眠りについたのだった。
*
そしてフィンの働きにより、アルノルドとの婚約はあっさりと破棄された。
ここで初めて、乙女ゲームの筋道と全く違う道に進んでしまった事に気付いたのであった。
全力で後悔したものの、ゲームと違って時間は戻らない。
(はぁ……なんでこんな大切な事を忘れてしまったのだろう)
本来の目的も果たせずに暫く落ち込んでいた。
考えれば考える程、自分の駄目さに気落ちしてしまう。
そんな中、何故か周囲から集まる同情。
どうやらラヴィーニアが婚約破棄をして、落ち込んでいると思われているようだ。
実際はシナリオから外れてしまった事を悔いているのである。
ヒロインには大変申し訳ないが、アルノルドルートを潰してしまった。
こうなったら慰謝料は諦めて、ラヴィーニアの幸せの為に頑張るしかない、と改めて気合いを入れていた。
そんな中、ロンバルディ家にアルノルドの母親で、赤の魔女であるエヴァが泣きながら謝りにきた。
別にエヴァが悪い訳ではないので「全く気にしてないので、エヴァ様も気にしないで下さい」と言うと、エヴァは思い切り此方を抱きしめて泣き続けたのであった。
そしてルドヴィカと共に激しく嗚咽するエヴァを、逆に励ましていた。
「チッ……馬鹿息子が」
やっと落ち着いたエヴァがペッ……と毒を吐き出したのをキッカケに愚痴大会が始まった。