13.許せないことがあります
「赤の魔女、エヴァ様には力及ばずに申し訳ございませんでしたと、そう……お伝え下さい」
アルノルドの母で赤の魔女と呼ばれているエヴァの事が、ラヴィーニアはとても好きだった。
ラヴィーニアがアルノルドとの関係が崩れても、コスタ家に行っていたのはエヴァに会いたかったからだ。
「待ってくれ……そんないきなり!!」
「アルノルド兄さん……っ、今のは本当ですか?」
フィンが静かにアルノルドを見据える。
アルノルドは否定する事なく、気不味そうにフィンから視線を逸らしてしまった。
フィンはアルノルドを”兄さん”と呼ぶほどに、彼を慕っていた。
「姉上が居ながら……他の御令嬢にも?」
「フィン…….これは」
「気安く名前を呼ばないで下さいッ!このことは母上と父上、そしてエヴァ様にも報告させて頂きます」
「ッ……待ってくれ!!違うっ……誤解なんだ」
「姉上が黙っているのを良いことに、遊んでたなんて!」
「遊んでたわけじゃ……!」
「では姉上という婚約者が居ながら本気で他の女に入れ上げてたと……!?」
「違うッ!!僕はラヴィの事が……っ」
「今更白々しい嘘はやめて下さい!……姉上、安心してください。もう大丈夫ですから」
一つ下とは思えない程にフィンの圧が凄すぎて、ブンブンと首を縦に動かす事しか出来なかった。
フィンによる鉄槌が重たくて、ちょっとスッキリである。
今のままでは、ここまで頭は回らなかっただろう。
あの日から、日が経つにつれてフィンはどんどんと過保護になっていく。
フィンに甘えてばかりいられないと懸命に頑張るものの「姉上はそのままでいいですから」と頼もしいフィンの言葉に甘えてしまっている。
フィンを見ていると、蜜柑だった時に一緒にいて助けてくれた幼馴染を思い出す。
昔からアホすぎる自分の前に出て、庇ってくれる幼馴染を心の底から信頼していた。
サバサバしていて、クールで、かっこよくて……いつも助けてくれた。
ラヴィーニアに憧れるキッカケになった人だ。
そんな幼馴染が急に恋しくなってしまう。
(…………ちーちゃんに会いたいなぁ)
あぁ……あとラーメンが食べたい。
あのドラマの最終回を録画して楽しみにしていたのに、どうなったんだろうか。
録画したアニメも見たかった。
そういえば冷蔵庫にあったプレミアムプリンは誰かに食べられてしまっただろうか。
以前の世界の事を思い出して、憂いを帯びた表情を浮かべていた。
そんな様子を見ていたフィンの顔は更に厳しくなる。
「姉上が許しても、僕は絶対に許しませんから……!」
「……っ」
「それに、ステファノ殿下も姉上にこれ以上暴言を吐くのは止めて頂きたい」
「……」
「先程の殿下の言葉にも頭にきてますからね?姉上を氷のような女などと……」
「事実だろう?」
「どこからどう見たって姉上は素晴らしい姉です。天からの贈り物です!女神です」
フィンの発言が気になるが、今はそれどころではない。
王太子にも臆す事なく睨みつける。
そんな様子にステファノも苛々とした様子を見せる。
(ハッ……!フィンが不敬罪とか言われたらどうしよう!!)
フィンを落ち着かせるように、腕を掴んで小さく首を振る。
そんな様子を見て何を思ったのか、フィンが口を開く。
「だってコイツ、姉上を「アバババッー!」
ついにコイツ呼ばわりし出したフィンの口を急いで塞ぐ。
「フィン……貴様、調子に乗るなよ!?」
「!?」
「はっ……そんな性格だから、御令嬢から怖がられて婚約者も出来ないんですよ」
「何だと……!?」
ピリピリムードにオロオロとしていた。
フィンも気が治らないのかステファノを鋭く睨みつけていた。