11.行かないで下さい
王族のみしか持たない珍しい属性で、第一王子、第二王子、そして第一王女がいるが、その第一王女の降嫁先を巡り、水面下で熾烈な争いが起きているのだという。
無属性の血が入ると高確率でレア度が高い子供が生まれるからだ。
皆、家の格を上げる為に必死のようだ。
「…………申し訳、ございません」
「儂に言ってどうする……他に謝罪すべき人が居るのではないか?どうなのだステファノ」
「……ラヴィーニア嬢、申し訳ございません」
「…………」
「愚息もこう言ってる事だ……考え直してくれまいか?」
「……」
「……」
チラリとディエを見ると首が折れそうなほど頷いていた。
つまり早く了承しろと言うことだろうか。
「…………はい」
「コスタ家にすぐに手紙を送れ……皆は城に泊まっていくと良い」
「……ありがとうございます」
「盛大に、もてなしてやれ」
「「はっ……!」」
ステファノと関わりたくない作戦は失敗である。
礼をしながら国王を見送った。
緊張に強張っていた力が抜けていく。
盛大というのが気になるが、とりあえずお腹が空いた。
「ねぇフィン、夕食のデザートに甘いものはあるかしら」
「姉上は甘いものはお嫌いでは……?」
「でも今は大好きみたい……フィンも好きでしょう?」
「……!はい」
「ふふ、食べるの楽しみね~」
そんなラヴィーニアの様子を見るステファノは驚いていた。
(嘘だろう……あれがラヴィーニアだと!?)
頭の回転が恐ろしい程に早く、いつも人をゴミのように見下している女が、あんな真綿のように柔らかい態度と緩みきった表情も浮かべるなど、実際に自分の目で見るまでは何一つ信じられなかった。
リスクを承知で鎌をかけてみたが不機嫌にはなったものの、ナイフのように鋭い視線を返す事も、誰にもバレずに仕返ししてくる事も無かった。
光属性の魔法を使う者は滅多に現れない……本当に貴重な存在だ。
それなのに、まさかあのラヴィーニアが有り得ない……と高を括って感情的になり悪い印象を与えてしまった。
ジューリオとラヴィーニアが婚約すれば自分の立場は……。
「……チッ」
*
そして次の日、心の準備も出来ないまま、急遽手配されたお茶会でアルノルド、ステファノ、ジューリオとテーブルを囲んでいた。
「……まず、アルノルド様、ステファノ殿下、ジューリオ殿下に今の姉上の状況を説明致します」
フィンの合図で耳を塞いだ。
どうやら"呪い"と聞くと倒れてしまうので、合図がある時には耳を塞ぐようにと言われていた。
フィンが此方を向いて頷いたのを確認してから、手のひらを離す。
「姉上、事情は説明しましたから僕は……」
「フィン、行っちゃうの……?」
フィンが居なくなってしまえば、何も話せなくなりそうで引き留めようと必死だった。
それに、この状況はよく考えたら地獄である。
フィンの服の裾を掴みながら、子鹿のようにプルプルと震えていた。
大きな瞳はうるうると潤みながら視線で必死に訴えかける。
フィンも、こんな神経を擦り減らすような場所からは一刻も早く抜け出したいのだろう。
「げっ……」と言いながら戸惑っているように思えた。
「……っ」
「フィン……」
「い……かないです」
「っ、ありがとう!良かったぁ……!」
「…………いえ」
「フィンが居てくれて本当に、本当に嬉しいわ!」
周囲の視線が痛いが、此処まで言われてしまえば従うしかない。
(姉上にこうしておねだりされる日が来るとは……)
ラヴィーニアの性格が正反対になってからというもの、無自覚に人を引き込むので手に負えないのだ。
以前は一人でギラギラと輝き立っており、付いてこい野郎共的な感じだった姉が、今はオロオロ、ヘラヘラしている。
それが上手い具合に男心を擽り、守ってあげなければならない……と思わせるのだ。




