01.大好きな悪役令嬢になりました
「……貴女なんて、わたくしの足元にも及びませんわ」
「あら、ごめんあそばせ」
「他の女性に優しくした手で、わたくしに触らないで下さいませ……!」
「わたくしは貴女が嫌いよ」
乙女ゲーム『ダイアモンドに魅せられて』
悪役令嬢であるラヴィーニア・ロンバルディ
アイスグリーンの髪に、ターコイズブルーの瞳
意思がハッキリしていて、孤高で、気高くて……。
そんな彼女にずっと憧れている私、蜜柑は優柔不断、お人好し、断れない。
いつもオドオドしているせいで、厄介事に巻き込まれるし、友人からは「蜜柑の阿呆さはヤバい」と毎度笑われている。
そんな憧れのラヴィーニアは、悪役令嬢ではあるが主人公を虐めるなんて小賢しい事はまったくしない。
主人公の前に堂々と立ち塞がり、引き際も弁えている素晴らしい悪役令嬢なのである。
ハキハキとした口調、気に入らないものは実力で捩じ伏せるという考え方。
そして何より美しく、自分の意志をしっかりと持っている。
ラヴィーニアが出てきた瞬間に全身が震えた。
生まれ変わるなら、こうなりたい!
そう、強く強く思っていた。
ラヴィーニアのように生きられたのなら、こんな自分を好きになれる……そう信じていた。
ーーーーーそう、今までは
「……いい加減、説教はよしてくれないか?」
「…………」
「ッ、そういう所がウンザリなんだよ!!!」
「…………へ!?」
「は…………?」
「えっと、えっと……?」
「おい、ラヴィーニア……ふざけるのも大概にしろよ」
「ラ、ラヴィーニアって……?」
「は……?君の事だろう?」
正直、戸惑っていた。
見た事のない景色、見た事のない場所……
そしてバッチリ見た事のある顔。
ラヴィーニアの婚約者であるアルノルド・コスタが目の前に立っていた。
公爵家の次男で遊び人であるアルノルド……ルビールートに出てくるラヴィーニアの婚約者である。
ちなみに第一王子がダイアモンドルート。
魔法の天才、ラヴィーニアの弟がエメラルドルート。
王家に仕える影がサファイアルートだった気がするが、ラヴィーニアが一際輝きを放つルビールートを延々とプレイしていた為、他のルートは全くと言って良いほどに知らない。
そんなアルノルドがラヴィーニアに言う台詞……。
「もうウンザリなんだよ!」という言葉に、ラヴィーニアは内心ショックを受けながらも気丈に振る舞うという、とても切なくてカッコいいシーンなのだ。
勿論、カッコいいのはラヴィーニアである。
ふと、窓に映るラヴィーニアと目が合った。
おかしいな、と思いつつ頬っぺたを抓るが窓に映るラヴィーニアも頬をつねっている。
そんな姿でも可愛らしいのがラヴィーニアで……?
(いや、待てよ……)
何故今、ラヴィーニアは頬っぺたをつねった?
そんなシーンは無い……もう一度窓を見ると、驚いた顔をしたラヴィーニアと目が合った。
(……もしかして、私がラヴィーニア!!??)
確かに彼女に凄く凄く憧れていたが、ラヴィーニアと中身が入れ替わってしまったら……只の私な訳で。
そして自分の好きなラヴィーニアではなくなる。
つまりは……?
思ってた展開と違うのではないだろうか!
(せめて今からでもいいから……神様!いるのならラヴィーニアに沢山撫で撫でしてもらえる飼い犬のジョセフィーヌにしてもらえないだろうか。それかラヴィーニアのお世話が出来る侍女でお願いします!!)
「……っ」
暫く目を瞑り手を合わせて願っても、目の前の景色が変わる事は無い。
誰か時間を止めて説明してはくれまいか、そう思いながら蜜柑は……ラヴィーニアは涙目になる。
「どうして……?なんで、こうなってしまったのッ!?」
心の声が口からダラダラと漏れていく。
急に態度が変わったラヴィーニアに、アルノルドは困惑しているようだった。