何をしていても
婚約を断った経緯があるため、サリーがこの城に遊びにくることを、リューンは断れないでいた。サリーを頻繁に寄越すのを見る限り、トレビ領主のジーベンは、リューンとの結婚をまだ諦めていないらしい。
二人の侍女も、しきりにサリーを褒め称えている。
リューンは、サリーが他人事のようにデザートを食べ進めていくのを見て、苦く笑った。
(けれど、褒め称えるに値する、本当に美しい人だ)
何度も思う。銀色の真っ直ぐな髪は、それだけで宝石のような輝きを持ち、薄い水色の瞳は、マニ湖に沈む人魚の涙の伝説を彷彿とさせる。
リューンは、これほどの美しさがあるにもかかわらず、心は暗い闇に閉ざされていることを、悲しく思った。
だが。
(……ムイは、黒髪だった)
艶のある黒さを思い出す。
リューンは、ふ、と笑った。
何を見てもムイを思い出す、そんな自分が滑稽に思えて。
美しいものを見たとしても、美味しいものを食べたとしても、ふと思わぬ悲しみに沈んでいっても、全てにおいてムイを思い出してしまう。
(この美しい人を妻に娶ったとしても、きっとムイと重ねてしまうだろう)
リューンは唇を引き結んだ。
すでに食事は終わり、歓談の時間となっている。もうすぐ始まる楽団の演奏を見てから宴会の終わりを告げ、サリーを客室へと見送り、そしてベッドに潜り込んで、また空っぽの一日が終わる。
(俺は、いつも独りなのだ。ムイが来る前も、孤独だった。ムイが去って、また独りに戻っただけだというのに、いつまでもこのように胸が痛むとは……)
ワイングラスを持ち上げる。
(ムイがいないというのに、俺はどうして生きていられるのだ?)
残っていたワインを、ぐっと飲み干す。
(会いたい、ムイ。お前に会いたいのだ)
テーブルに強く置くと、グラスがガシャンと音を立てて割れた。
「きゃあ、リューン様っ」
リューンが視線を向けると、右手に血が付いていた。
「ああ、すまない。うっかりと、割ってしまった」
空っぽの身体に、空っぽの心。痛みはあるのだろうが、ぼうっとした脳には届いてこない。
麻痺している。ずっと、麻痺し続けている。
「大丈夫だ」
リューンは膝にかけていたナプキンを取って手を押さえようとした。
その時、横から見慣れぬ絹のハンカチを当てられて、ふとそちらを見た。
「あ、お前、は……?」




