涙は枯れた
(とても、お似合いだ……)
ムイはその時、昔あてがわれていた部屋の中にいた。
「国賓の歌姫を、このような部屋にお通しするなんて、」
渋るローウェンに無理を言って、案内をしてもらう。
三年ぶりのリンデンバウム城だった。
城の様子や雇われている人々は、何も変わってはおらず、ムイは懐かしさでいっぱいになる。
あの頃。
幸せだった頃。
夢のような生活だった。辛いこともあったが、リューンのことを好きになり、リューンの側にいた期間は短かったけれど、至福のときを過ごした。
そのリューンの側には。
自分ではない、美しい女性。
サリーを抱き上げながら、バラ園を横切る、リューンの姿。
(リューン様は相変わらず、お優しくて……)
こみ上げてくるものに、思考を遮られる。リューンを失った苦しみはいつも、そしていつまでもどこかからせり上がってきては、ムイを苛んでくる。
(とても素敵な、)
仲睦まじく。手を取り合いながら。バラ園を横切っていった姿も見た。
(お似合いの、)
涙が出るのかと思った。けれど、ムイにはそれはもう枯れてしまったような気がしていた。
リューンと離れて生きていかなければならないのだと知ったとき。泣いて泣いて、そしてまた泣いた。夜が白々と明けていくまで。毎日のように。
(ライアンが時々、心配して部屋を覗いてくれて……)
ムイは、もう誰もいないバラ園を見下ろした。
昔は自分もよく、休憩時間になると、そっとこのバラ園を通って、白いガゼボまで走っていったっけ。
思い出すとそのバラ園に、白いワンピースにエプロンの後ろ姿が見えたような気がして、ムイは自分の身体を抱きしめた。
胸には、皮製の小袋。
中には、花の髪飾りが入っている。肌身離さず持ち歩いた髪飾りを、ムイは自分ごと抱きしめた。




