表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

92/205

涙は枯れた


(とても、お似合いだ……)


ムイはその時、昔あてがわれていた部屋の中にいた。


「国賓の歌姫を、このような部屋にお通しするなんて、」


渋るローウェンに無理を言って、案内をしてもらう。


三年ぶりのリンデンバウム城だった。


城の様子や雇われている人々は、何も変わってはおらず、ムイは懐かしさでいっぱいになる。


あの頃。

幸せだった頃。


夢のような生活だった。辛いこともあったが、リューンのことを好きになり、リューンの側にいた期間は短かったけれど、至福のときを過ごした。


そのリューンの側には。


自分ではない、美しい女性。


サリーを抱き上げながら、バラ園を横切る、リューンの姿。


(リューン様は相変わらず、お優しくて……)


こみ上げてくるものに、思考を遮られる。リューンを失った苦しみはいつも、そしていつまでもどこかからせり上がってきては、ムイを苛んでくる。


(とても素敵な、)


仲睦まじく。手を取り合いながら。バラ園を横切っていった姿も見た。


(お似合いの、)


涙が出るのかと思った。けれど、ムイにはそれはもう枯れてしまったような気がしていた。


リューンと離れて生きていかなければならないのだと知ったとき。泣いて泣いて、そしてまた泣いた。夜が白々と明けていくまで。毎日のように。


(ライアンが時々、心配して部屋を覗いてくれて……)


ムイは、もう誰もいないバラ園を見下ろした。


昔は自分もよく、休憩時間になると、そっとこのバラ園を通って、白いガゼボまで走っていったっけ。


思い出すとそのバラ園に、白いワンピースにエプロンの後ろ姿が見えたような気がして、ムイは自分の身体を抱きしめた。


胸には、皮製の小袋。


中には、花の髪飾りが入っている。肌身離さず持ち歩いた髪飾りを、ムイは自分ごと抱きしめた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ