美しい人、サリー
二年後
「ご機嫌はいかがかな、サリー」
リューンがサリーの手を握ると、サリーは振り返り、にこっと小さく笑った。その様子をサリーの侍女二人が、見守っている。
手を離してからリューンは、サリーの向かい側の席へと座った。
「サリー様は今日、中庭のバラ園を散歩なさいました。バラが本当に見事で、美しいですね。今が見頃と教えていただきましたので、とても楽しみにしておりました」
一人の侍女が、明るい声で言う。
「本当に手入れが行き届いていますわ。うちの庭師にも教えていただきたいくらいでございます」
もう一人の侍女が、その管理の質の高さを褒めたたえた。
リューンは柔らかく笑うと、テーブルの上の切り花を指して言った。花瓶には、薄いピンクのバラが、大輪の花を咲かせている。
「腕の良い庭師のおかげだ」
リューンは手元にあるティーカップを口にした。ふわりと紅茶の香りが鼻の奥まで届く。
カップを皿に置くと、リューンは目の前にいるサリーを見た。
(本当に美しい人だ)
サリーも同じように、ティーカップをすすっている。表情はとても柔和で、バラ園での散歩がよほど楽しかったのだと窺えた。
(心の病というものは、なかなか治らないものだな)
リューンはもう一度、紅茶を飲んだ。
(少しでも、サリーの気持ちが晴れたら良いと思って、あれもこれもとやってみたのだが……)
「サリー様が、バラ園の先へと行きたいみたいなのですが、何かお楽しみはありますか?」
リューンはティーカップを持つ手を止めた。口に含んでいた紅茶をごくと飲み込むと、睫毛を半分伏せてから、言った。
「特に何もないよ。だだっ広い芝生があるだけで」
リューンがにこっと笑うと、サリーも同じように笑った。
「ただ……白いガゼボならある。気になるようなら、案内しよう」
「本当ですかっ!」
侍女の一人が喜んで飛び上がり、サリーの背後から耳元に唇を寄せて言った。
「サリー様、お喜びくださいっ! リューン様が、お散歩にお付き合い下さるそうですよっ」
サリーがにこっと笑う。
「リューン様。サリー様と手をお繋ぎいただきたいのですが」
もうひとりの侍女が、おずおずと言う。
リューンはその浮かれた侍女らの様子を苦笑しながら見ると、わかったと返事をした。
きゃあっと侍女たちがじゃれ合う。サリーも、彼女たちが戯れているのを見て、ふふっと笑った。
(可愛らしい人だ)
リューンは紅茶を飲み干してしまうと、サリーの横に立ち、手を差し出した。
「では行こう、サリー」
サリーがそれにならって白く細い手を差し出す。リューンがそれを優しく握る。サリーがテラスの階段で転ばないようにと、そっと手を引いて先導した。
いつのまにか、侍女の二人の姿はない。
リューンは心で苦笑した。