頭の痛い問題
ライアンが二人の従者を連れて帰ったのを見送ると、ローウェンは大きく溜め息を吐いた。ライアンを乗せた馬車が、ガタガタと音を立てて去っていく。その後ろ姿を見送りながら、ローウェンは頭の中で考えを巡らした。
(はああ、ようやく片がついたな)
けれど、胸の内はまだざわざわとしている。
「ローウェン、このままだと貴様もどうなるか分かったものではないぞ。ムイを寄越すように伝えろ。そして、父上が進めている縁談を受けるよう、リューン殿を説得しろ」
(縁談を持ってくることは、想定内だったが)
ローウェンは最近のリューンの姿を思い出していた。
(ムイを差し置いて、トレビ領のサリー様とご結婚なぞ、できるわけがない)
リューンの、ムイを見る目。愛しさに満ちていて、それはもう甘く甘く切ないものだ。
(この縁談を受けることになれば、それこそムイを愛人にでもするしかなくなってしまう)
「そんなことはご本人が許さないでしょうが……それにしてもこれは頭が痛い問題ですね」
声に出すと、その重みが増していく。投獄、なんてことは無いにしても、領主の地位を追い出されるか、無一文にされるか。
(その両方も考えられる、か。少し財産を分散しておくか)
執事とはいえ、リューンからの信頼も厚いローウェンは、リンデンバウム領の各地から集まってくる年貢を金品にして、管理している。
(無一文では、たとえムイを連れて出たとしても、生活力のないリューン様では、まあ悲惨な目に遭うだけだからな)
ふ、と笑うと、ライアンの馬車が見えなくなったのを確認すると、エントランスを通り中庭へと入った。