連れていかせない
「断る」
リューンが低く声を抑えながら、そう答えた。
ライアンは、はあっと溜め息を吐くと、持っていたナイフとフォークを魚料理の乗った皿の上に、ガチャンと音をさせて置いた。
「断ることなど、できないはずです」
「…………」
「リューン殿、僕はお祖父様に……シーア=ブリュンヒルド本人にムイを連れてこいと言われているのですよ」
「なぜ、そこまでしてムイを欲するのだ?」
「何度も説明しましたが、僕がムイを気に入ったからです」
「妻に娶るというのか」
ライアンが両手をテーブルの上に投げ出した。呆れたような口調で、ライアンは言った。
「はあ? 僕がムイを妻になどするわけがないでしょう」
「どういうことだ。ムイを見初めたのではないのか?」
リューンが訝しげに、ライアンに問い掛ける。
「侍女だった女を妻になどできるはずがないでしょう。しかも学もなく、おまけに喋れないときてる。まあでも、ムイは顔は可愛いからね。着飾らせて側に置いておく、ぐらいはしてもいい」
その言葉にリューンはテーブルをバンッと叩いて、立ち上がった。その拍子に、テーブルの食器が一斉に、ガシャっと音を立てた。
「ムイを愛人にでもするつもりかっ‼︎」
リューンの行動に対抗するように、ライアンも立ち上がった。
「そうだとしても、あなたは断れないはずだ。断ればどうなるか、知っているでしょう。手紙によれば、僕の父上が、リューン殿とトレビ領の姫君との結婚も進めているようです。あのような美しい人を妻にできるのなら、侍女の一人や二人……」
イスを後ろへと倒しながら、リューンはライアンの元へと駆け寄ろうとした。けれど、後ろに控えていたローウェンが、そのリューンの腕を掴んで引き止めた。
「リューン様、お食事中でございます。お控えください」
ローウェンに諌められて、リューンはダイニングルームを出た。
自室に戻ると、デスクの引き出しから、宝箱を取り出す。中からムイにもらった手紙を出すと、ぐっと握った。
「……愛人だとっ」
いつのまにか、手紙を握りしめている手が、ぶるぶると震えていた。
「連れていかせない、絶対に」
その続きは心の中で強く思った。
(……もう、ムイを手離すことなど、できやしないのだ)
リューンは、ムイを思い浮かべた。ムイの笑顔だけが、脳裏を埋め尽くしていった。




