表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

67/205

命令


「ムイを一緒に連れていきます」


強気に言い切るライアンを前に、リューンは冷静であろうとしていた。


先にローウェンから情報を耳に入れていたため、さらなる驚きはなかったが、こうして面と向かって主張されると、カチンと頭にくる思いしか生まれない。


「何をバカなことを。ライアン」


いつもは極力言うのを控えている、相手の名前を声にする。威嚇の意味もあったがそれが功を奏したのか、ライアンはその声に少しだけ顔色を変えた。


「こ、これは祖父ブリュンヒルドの命ですので……きいていただかねば困ります」


怯んだ声に被せるように、リューンが声を上げた。


「どういうことだ、説明しろ」


んっんー、と一つ咳払いをし、ライアンは座っていた椅子を下げて、立ち上がった。机の中央に、ポケットから出した一枚の白い紙を放る。それをローウェンが取り上げ運び、リューンの手元に差し出した。


リューンは、それを取り上げると、一読し、そして言った。


「これは、どういうことだ?」

「そこにある通りです」

「どうして、叔父上がムイのことを知っているのだ?」

「私が手紙を出したのです」

「ムイを気に入ったと?」

「はい」


このまま永遠にやり取りが続くような気がして、リューンは少しの沈黙の後、息を整えた。


「ムイはこの城の侍女だ」

「しかし、リューン殿はムイの名前は握ってはいない」

「…………」

「それなら、ここから出ていくこともできるはずです」

「悪いが断る」

「祖父の命令でも?」

「…………」


リューンが唇を噛んだ。


「お祖父様の命には逆らえません。当然ながら、この私も然り、です。そしてそれはリューン殿も同じのはずです」


リューンは思わず立ち上がると、客室から出て、執務室へと戻った。


ローウェンが後からついてきて、リューンの様子を伺う。リューンは考え込むようにしてイスに座ると、デスクに両ひじを立てて、手を固く握りこんだ。


「くそっ、こんなおかしな話があってたまるかっ‼︎」


ドンっと机を拳で叩く。


「ライアンはこの城へと来てまだ間もないのだぞ。こんな短期間でムイを見初めて、伯父上に手紙をやるなんて、そんなことできるわけがないだろうっ」

「しかも、お返事までもらっているとは、用意周到といいますか……」

「くそっ」

「リューン様」


ローウェンと視線が合う。


「……何だ? 言ってみろ」

「知っていた、とは考えられませんか?」


お互いの怪訝な視線。二人のそれは、さらに何かを探るような真剣なものになっていった。


「まさか、最初から? それが目的なのか?」

「あり得ます。というか、そう考える方が筋が通ります」

「どうしてなんだ」

「ムイの何かを狙って、ということでしょうか」

「何かとは……なんだろう」


ローウェンが、肩を上げる。


「それは、わかりませんが」

「だが、初めてここへ連れてこられた時だって、ムイは何も持っていなかったぞ」


リューンが考え込むように、眉根を寄せる。


「今だって、そう特別なものは持っていないはずだが」


ローウェンも同じように考え込んでいる。


「とにかく、ムイを連れていかせはしない。けれど、ライアンの名前を握るわけにもいかない。しかも名前を握っていない状態で、このまま置いてもおけない。早急に帰ってもらおう」


名前を提供しない者。それはリューンの力が及ぶこの城の中において、長期間滞在することはできないのだ。名前を隠したり、違う呼び名で呼んだりするだけで、身体を壊して弱っていってしまうからだ。


(そのうち、体調が悪くなってきて……まあ尻尾を巻いて逃げ出すに決まってはいるが)


「その時、ムイを強引に連れていくかもしれません」


ローウェンも自分と同じ考えに辿り着いたと知り、リューンは眉をひそめた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ