気味の悪い従者
「気味が悪いわねえ」
「本当に、ライアン様のお付きの人なのかしら?」
ライアンが従者の二人を呼んで城に滞在させることとなってから、にわかに城の侍従や侍女の間が騒がしくなった。
「のっぽと小太りが、許可なく城の中をうろうろと歩き回ってるんだよ」
「あたしらをじろじろと見ていくしねえ」
「嫌だね、ほんと」
ムイはここのところずっと、洗濯の手伝いに駆り出されていたので、ライアンが部屋に来て以来、ライアン本人にも噂の従者にも直接会ったことはなかった。
(お客様が増えて、食事の準備もてんてこ舞いなのだろうに、どうして私は洗濯係に回されたのだろう?)
つい最近まで、ムイはマリアの元で、ムイは自分に与えられた食事の片付けという仕事に精を出していた。マリアやソルベたちの、自分に親切にしてくれる気持ちに、応えたいということもあり、ムイは自分の仕事に一生懸命に取り組んだ。だからこそ、そのような気持ちが芽生えたのだろう。
(何か私に、至らない点でもあったのだろうか)
ムイは、何度も頭をひねって考えてみたものの、原因のようなものは見当たらない。
けれど、洗濯がお前の仕事だと言われれば、一生懸命仕事をするしかないし、それが良くしてもらっているリューンへの恩返しだと思っている。
(もし、何か私に至らない部分があるのなら、はっきりと言って欲しい)
けれど、面と向かって、こんなにも役立たずだとは思わなかった、などと言われようなものなら、自分は奈落の底にでも落ちたような気持ちになるだろう。
手紙などで文章を書くことができるようになったものの、それが怖くて、訊くのも憚かられていた。
(このまま、もやもやとしたまま、過ごすのも嫌だなあ)
山のように洗ったタオルを一枚一枚干しているうちに、やはり訊いてみよう、という気になった。
(ローウェン様になら、その理由を尋ねてもいいような気がする)
それが名案のように思えて、ムイは昼過ぎに貰える休憩の時間になると、ローウェンの執事室まで軽い足取りで、歩いていった。
トントン、とノックをする。けれど、ローウェンは留守のようだ。ムイは仕方なく、洗濯室へと戻ろうとして、踵を返した。
その時。
廊下の先に、二人の男が立っていた。
(あ、あの人たちっ)
ムイは、その男たちの姿を目に入れると、自分の身体が自然と後ろへと後ずさるのを感じた。
見覚えがあった。それと同時に、背中をぞくっと、何かが這い上がっていく感覚に陥った。そしてそれは、過去に覚えのある感覚だった。
「名を持たぬ女よ」
声にも聞き覚えがあった。
それは、ミリアの店からアランと別れて走って帰る途中で、道に迷ってザイラの森へと迷い込んだ時に、声を掛けてきた二人組の男だ。
一人は背が高く細身。もう一人は、背が低く小太り。
顔はよく覚えていないが、間違えようがないくらい、ムイの中にある種の恐怖として刻まれていた。
(この二人が、ライアン様の従者?)
考えているうちに、二人がそろそろと歩をつめてくる。
「名を持たぬ女よ、お前の真の名前を言うんだ」
どっ、と心臓が跳ねた。
男たちが手を伸ばした。足音が、あっという間に大きくなり、近づいてくる。
ムイは焦って、廊下の反対方向へと走った。
(この先は、あの湖が見渡せるバルコニーと……リューン様のお部屋)




