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接点


「ねえ、君」


朝の、まだ早い時間だった。


ライアンが声を掛けると、布巾を持って窓を拭いていた掃除係のジュリが振り返った。ジュリはその声の主が、この城の当主の親戚のものだと気がつくと、布巾を両手で握りしめながら、深々と頭を下げた。


「これは、ライアン様、おはようございます。気がつきませんで、申し訳ありませんでした」


再度、ジュリが腰を曲げる。

ライアンが、まあまあそれくらいでと両手でジェスチャーを交えると、すぐにジュリに問うてきた。


「ムイって子は、どこにいるのかなあ?」


ジュリが怪訝な顔をしながらも、ムイをお呼びですか、と尋ねる。


「うん、ちょっと会ってみたいんだ。僕の部屋に連れてきてくれないかな」

「かしこまりました」


ジュリは頷いてから、調理場へと向かった。今の時間ならムイは朝食作りの手伝いをしているだろうと思って調理場に声を掛けると、ムイの勤務は片付けの時間からだと、ソルベが言う。


(それならまあ、ローウェン様にお願いするか)


二階のムイの部屋をノックしたが返事がなかったのもあり、ジュリはローウェンの執事室に向かった。


「ライアン様が、ムイを?」


ローウェンが眉をひそめた。

昨日のリューンとライアンの対面の場面をいくら思い返してみても、ライアンとムイの接点が見当たらない。


「あるとしたら、夕食の時間に私が席を外した時、か」


この日の夜に使うライアンの寝室に、問題がないかをチェックしに行った時だ。

シーツの縁に汚れがあり、洗濯係のユリに替えさせたりと、色々と雑事に追われていた。


「わかった、私が連れていこう」


ジュリを帰してムイを探す。城内で呆気なく見つかったムイを引き連れて、ローウェンはライアンが使っている客室へと向かった。


「君がムイだね。悪いがローウェン、外してくれないか」


ライアンの要望に、悪い予感を抱えたローウェンは、なんとか理由をつけて、そこに留まった。


「何だい、執事が側を離れないとは。まるでお姫様だな」


ライアンは、苦笑すると、ムイの近くに寄った。

リューンの親戚だと聞いていたのもあるのか、ムイは緊張を隠せずに、その場で姿勢をぴんっと伸ばしている。


(しかし、ムイにいったい何の用だ)


ライアンが、ムイを値踏みするかのようにジロジロと見ている。


(リューン様に報告してからの方が良かったか?)


ムイは唇をひき結んだまま、その場で立ち尽くしている。握られた両手に、かなりの緊張感が見て取れた。


「ふーん、可愛いな」


ローウェンはぎょっとして、慌てて声を掛けた。


「ムイは、ここの侍女ではありますが、字の読み書きもできない上、喋ることもできません。どうぞ、これ以上は、お許しいただきますようお願いいたします」


すると、ライアンはムッとした顔を浮かべると、ローウェンに向かって言葉を投げた。


「別に、可愛いって言っただけだろ? 取って食おうってわけじゃない。執事のくせに、失礼だな」


すぐにローウェンが謝罪した。

「ご無礼をお許しください」


「もういいよ、下がれ」

「失礼いたしました」


ローウェンは、ムイを部屋から連れ出すと、廊下の端まで連れていき、そして言い含めるように言った。


「ムイ、ライアン様に近づかないように」


ムイは、こくこくと顎を打つと、パタパタと足音をさせて調理室へと向かった。その後ろ姿を目で追っていたローウェンは、深い溜め息をつかざるを得なかった。


「まさか、ムイに矛先を向けてくるとは」


ライアンが、何かの目的でこの城に来たことはわかっていたが、何の目的かがわからないままムイに目をつけられて、嫌な予感で胸が騒いだ。


(リューン様に、お伝えしておいた方がいい、か)


ローウェンは両肩に重いものを乗せられたような気持ちがして、肩をパンパンと軽く手のひらで叩いた。

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― 新着の感想 ―
[一言] まだちょっとライアンの真意が分かりかねます。 いいことならいいのですが。
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