表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/205

すべて枯れてしまえ


「リューン様、ここで働かせてほしいという者が……」

「俺のことは知っての上でか?」

「……はい」

「空きはあるのか?」

「料理の片付けにもう一人欲しいと、マリアに頼まれてはいました、が……」


珍しく言葉を言い淀むローウェンに、リューンは引っ掛かりを感じながらも、「契約書は見せたのか?」と問うた。


「ええ、まあ」

「一生、ここからは出られんぞ。それで納得しているなら、雇うがよい」

「承知しましたが……リューン様、直接お会いしていただけませんか?」

「お前が良いというならそれでいい」

「……ですが、」

「ローウェン。もういい。下がれ」


リューンに名前を呼ばれただけで、ローウェンの身体に力が入ったことが見て取れた。それ以上の言葉は、ローウェンの口からはもう出てこない。唇を結んだままお辞儀をし、執務室から出ていく後ろ姿を見て、リューンは深いため息を吐いた。


(忌々しい力だ。相手を支配して、どうするというのだ。言いなりになるものをかき集めて、国でも作ろうというのか? この呪われた城のように)


書きかけであった書類を手前に引き寄せ、ペン先をつける。しかし、すぐにペンを机に叩きつけた。高級な羽ペンが、床に落ちて転がっていく。


(また一人、囚われのものが増えるというわけだ)


ふっと、自嘲の笑みを浮かべる。リューンは立ち上がり、窓辺へと寄った。


窓からは城の広大な庭が見渡せる。正面に据えてあるこの広い中庭は、先代、先々代とこの百年ほどの間は、特に力を入れて整備されてきた。


リューンに庭や花々を愛でる趣味は無かったが、雇い入れた庭師の腕が良く、一年中常に美しい庭園が保たれている。

今はバラが見頃で、時々こうして窓辺へと寄っては、見下ろし眺めていた。


「さて。花にも名があるのだから俺が呼べば、花でも俺の言うなりになるのだろうか」


窓に手を掛ける。


「アンバークイーン」


アプリコットイエローの美しいバラの名を呟き、手の中に握る。それからリューンはその名前を再度、飲み込んだ。


そして。


「すべて枯れてしまうがいい!」


思いの外、きつい声色になったことに小さく驚いた。

けれど、バラはどうにもならず、引き続きその美しさを保っている。


「はは、やはり人にだけの効力なのだな」


その時、がたっと背後で何かの音がした。


「誰だ」


リューンが振り返ると、部屋のドアが少しだけ開いている。その間から覗く、白い指先。


「誰だと、言っているのだっ」


リューンが近づくと、指先は滑るように、するっと消えた。

リューンはそれを追ってドアに近づき、そのまま廊下へと出る。


すると、パタパタと足音をさせて、少女が駆けていく後ろ姿が見えた。


白いワンピースがひらっと舞う。


けれど、その白色はそれが本来の色なのかどうかが分からないほどに、所々黒く汚れてくすんでいる。素足。ぼさぼさの黒髪。


「おい、待てっ」


リューンは声を上げたが、少女は走り去ってしまった。


「何だ、あれは」


リューンは部屋へと戻ると、「ローウェンっ」と執事の名を呼んだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ