来訪者
「ブリュンヒルド城の伯父上から? 珍しいこともあるもんだな」
ローウェンは一通の封筒を差し出しながら、遠慮なく言った。
「先日の、シェリル様の成人披露パーティーをお断りになられた件ではないでしょうか?」
リューンは、嫌いな料理を前にした子どものように、顔をへし曲げた。
「随分と前のことだぞ。お前も相当しつこいな」
差し出された書簡を受け取ると、ペーパーナイフで切れ目を入れた。
「伯父から便りをもらうなど、いつ以来だろう」
ローウェンはその言葉で頭の中をさらうと、「三年前に、キリル辺境地の譲渡問題の時に書簡をいただきましたものが、最後でした」と言う。
そうだったなと返事を返しながら、中から便箋を取り出す。
リューンは、真っ白な便箋を一瞥すると、はあっと大きな溜め息を吐いた。
「ライアンがわざわざこちらに来るそうだ」
「ライアン様が、ですか?」
伯父シーア=ブリュンヒルドは、リューンの伯父ではなく、リューンの母親の伯父で、ワグナ国の西方の地を他四人の領主と分け合っている大地主でもある。リューンとは遠縁の親戚にあたるが、リューンに対しては無関心を貫いているため、節目の折にしか会ったことはない。その伯父の後継者である長男ハリスの息子、次男ライアンが、リンデンバウムの隣地の視察に来る際、この城に寄る、と書いてあった。
「一体、何の用でしょうか」
「わからんが、あの伯父上のことだ。まあ、何かはあるだろうな」
デスクに、パサッと書簡を投げた。
「各々忙しいだろうが、このことを皆に告げてくれ。そこそこで良い、もてなしてやれと伝えろ」
ローウェンがかしこまりました、と頭を下げながら、ふっと笑う。
「なんだ?」
リューンが問うと、「そこそこでよろしいんですね?」と訊く。
それを聞いて、リューンが呆れ顔を寄越してくる。
「その塩梅は、お前がよくわかっているだろう、ローウェン」
「私の『そこそこ』で良ろしければ」
ローウェンも同じような呆れ顔を返すと、ドアを押して部屋から出た。