それは、独り
「孤独、か」
リューンはベッドに横たわると、両手を頭の下の枕に突っ込み、天井を見上げていた。たくさんの羽毛が入れられた特注の枕はふわふわで、毎夜リューンの頭を包み込んでは、夢へと誘う。
「はは、可笑しなものだな。この城にはたくさんの従者がいるというのに」
ごろりと横になると、ぎしっとベッドが声を上げた。天井の、それより遠いところをぼんやりと見る。
「俺は、いつだって独りだ」
言葉にすると、胸が絞られるような痛みがある。
「どうしてこのような力を譲り受けてしまったのだろう」
名前を手にして飲み込むだけで、人々は自分の言うがままに動き、従う。
若い頃はその力が面白く、我がもの顔で勝手なことをして、ローウェンにたしなめられたりしていた。
「ここの従者はあなたの所有物ではありません」
ピシャリと言う、そんなローウェンの進言もうるさいと感じれば、ローウェンの名前を挙げ、さっさと部屋から出ていくよう命ずれば良い。これは小気味の良い力だと思い、有頂天になったこともあった。
侍女の一人や二人、いいようにしたこともある。最低のことをしているという自覚はあった。
「リューン様」
とろんと潤んだ瞳で何度も自分の名前を呼ばれて、その快感に夢中になった。
けれどある日。気がついてしまった。彼女らの瞳に彼女らの意思や真心など、まるで宿ってないのだということに。名前を呼ぶことで、鎖で縛るかのように、言うがままにしていたということに。
「愛していると言ってくれ」
そう頼めば、首に腕を回し抱きつき、女は「愛しています、リューン様」と耳元で囁いた。
名前を呼び、命令し、従わせる。
「それが虚しく意味のないことだと、少し考えれば分かったはずなのだがな。随分と時間を無駄にしてしまった」
それ以来。もうこれからも生涯。誰とも恋愛をせず、誰をも束縛もしないと決めた。
すべてが偽物。わかりすぎるほど、わかっている。
リューンは眼を閉じた。毛布を肩まで引っ張り上げると、すうっと冷たい冷気が首元を撫でた。足を曲げて丸くなる。
(これからもずっと独りだとしてももう、それでいい)
手のひらをシーツの上で、すいっと滑らせる。冷えていたシーツの温度が次第にぬるくなるのを感じながら、眠りに就いた。