アランとの結婚
「何を言っておいでなのですか、リューン様」
いつもよりきつい口調のローウェンの言葉を、敢えて受け止めながら、リューンは朝食後の二杯目の紅茶を飲んでいた。カップに口をつけるが、いつものような芳醇な香りも甘みや苦味などの味もしない。
空っぽになった心。リューンはカップをカチャリと音を立てて皿に置いた。
「ムイをアランと結婚させようと思う」
「ムイが了承するはずがありません」
「そんなことはない、ムイはアランを愛している」
以前なら口に出すのも躊躇っていた言葉が、空っぽの心だとこうもすらっと言えるものなのだと思う。リューンはその思いに、失笑するしかなかった。
「アランだって、ムイの気持ちを無視して結婚するはずはありません」
「アランなら、俺が命令すればいい」
「リューン様っ‼︎」
「…………」
「アランのプライベートに口を出す気ですか」
「…………」
「ムイの気持ちはどうなるんですか」
「ムイには俺から説明しよう。反対などしないはずだ。城の西側に家を建てよう。そこで二人、暮らせばいい。アランの給金を二倍にしろ。ムイは仕事を辞めて、アランと……所帯を持てばいい」
(アランとムイなら、産まれてくる子供もきっと可愛らしいだろう)
「リューン様」
ローウェンの意思を抑えたような声が耳には届いたが、冷めた声でリューンは言い放った。
「ローウェン、命令だ。アランとムイを結婚させろ」
ローウェンはリューンの命のまま部屋から出ていった。
それから少しして、リューンはデスクの引き出しを開ける。中から取り出した小さな宝石箱。
「俺にはこれさえあれば、」
蓋を開けて、中身を取り出す。
「『親愛なる、リューン様』……」
何度も何度も読んで覚えてしまい、簡単に諳んじられる文章。
「これさえあれば、生きていける。ムイにもらった、この手紙さえ、あれば、」
生きていけるのだ。