アランの優しさ
「大丈夫? 痛いかい?」
アランの問いかけに、ムイは顔を振った。
庭師アンドリューの住居は、城の中庭の一角にあり、庭の管理がしやすいようにと、比較的中心部に建っている。けれど、角度的に城からは見えない、隠れ家的な佇まいだった。
建物は古く、室内を歩くだけでギギッと木の軋む音が響き、風の強い日になると、窓枠がカタカタと鳴った。
ベッドに座らされたムイは、初めて訪れた庭師の家に、そわそわと落ち着かない様子だ。外にある水場で足を洗われ、清潔で柔らかいタオルで足を巻かれて抱き上げられ、家の中へと運ばれた。
「僕の家は初めてだったね。って言っても、ここはアンドリューの家だけど。僕は居候だから」
はにかみながら、笑う。アランの太陽のような笑顔はムイの気持ちを軽くした。けれど、すぐにもリューンに怒鳴られたことを思い出し、心が重く暗くなる。
そんなムイを察してか、アランが明るく言った。
「あんなに怒鳴り散らさなくてもいいのにね」
「…………」
唇を結ぶと、アランが手を差し出して、ムイの頬をそっと包み込む。
「あんなの、気にしないでいい」
ムイがこくっと頷くと、アランが足に巻いたタオルをそっと取る。
「うわ、痛そ」
脛に数本の傷が走っており、そこから血が滲んでいる。外したタオルも赤く染まっていて、意外と出血が多かったことを物語っていた。
ムイは、怒鳴られたことで恐怖が先に立ち、その時は傷の痛みは感じなかったが、アランの家に来たことでほっとしたのか、今になって痛みを感じてきている。
ジンジンと脛が脈打つように痛む。
顔をしかめると、アランが下から覗き込むように、訊いた。
「痛い?」
アランは奥の小部屋から持ってきた包帯を、ゆっくりと巻いていく。両足が包帯で埋まる頃、ムイの顔も穏やかになった。
「深い傷じゃないから、すぐに治るよ」
ありがとう、ムイは深く頭を下げた。アランが再度、ムイの頬に手を当てがった。
温かい。
(優しいな)
自分の頬の体温が、少し上がったような気がして、ムイは頬を染めた。