決意
「……ローウェン、頼む。ムイを、ムイを探し出してくれ」
ムイが行方不明になったのを受けて、城中がわっと騒がしくなった。
その反対に、リューンの心はどんどんと冷えていった。
ようやく、ムイが何かの拍子に少しだけ笑うようになってきた、という矢先のことだったからだ。
「……なぜなんだ、どうして、」
空っぽになったベッドの側で、呆然として立ちすくんでいるリューンの横を通り抜け、ローウェンはタンスの引き出しを開けた。
「……リューン様、これを、」
押し花を施したシガレットケース。そして、その代わりにとでも言うように、無くなっていた花の髪飾り。
「ムイは自分の意思で、ここを出たのでしょう」
リューンは、シガレットケースを受け取ると胸に当てて、天を仰いだ。
「そんなに俺が嫌だったのか、俺はそんなに、嫌われていたのか……」
胸が潰れそうに痛み、その痛みを受け入れるように弱々しく呟いた。
そして俯いたリューンに向かって、ローウェンの怒声が飛んだ。
「そんなことがあるわけないでしょうっ‼︎」
リューンが歪んだ顔を上げる。
「リューン様、ムイはあなたを想って、ここを出ていったのです。あの事件であなたが愛するこのリンデンバウムに泥を塗ってしまったと、ムイは思い込んでいる。だからこそ、自ら出ていったのですっ。そのシガレットケースと、ムイが持っていったお母様の形見の髪飾りが、何よりの証拠でしょうっ」
はあはあ、とローウェンが心臓を押さえながら、言い切った。
唇から飛んだ唾を手の甲で拭うと同時に、ローウェンは初めてリューンの前で流した涙を、そのまま一緒に拭った。
「……ローウェン」
ローウェンはもう一度ぐいと涙を拭うと、リューンに顔を向けて、真っ直ぐに問うた。
「さあ、リューン様っ、あなたは一体どうするのですかっ‼︎」
リューンが同じように、真っ直ぐローウェンを見た。
「……探し出す、必ずムイを探し出してみせる」
「ムイの父上の行方が知れません。ですから、親娘連れの捜索も必要になってきますよ」
「ああ、ローウェン、手伝ってくれ」
「もちろんです。あなたの命令は、ずっと聞いてきましたから」
リューンがローウェンの背中に手を掛け、二人は部屋を出た。