大好き
シバが、ムイの顔を覗き込むように、問う。
手元に落としていた顔を上げる。ムイは手を止めて、そして笑った。
「ふふ、内緒」
「うそ、だれだれ?」
「楽団の人?」
すると、皆がまた後ろへと振り返る。
思いも寄らぬカードをつかまされて、男たちがくそおっと、声を上げている。テーブルをだんっと叩いたり、足をならして地団駄を踏みながら、大袈裟に騒いでいた。
「バカね、あんた。あんなの中に居るわけないじゃないっ」
その声にぶはっと一斉に吹き出す。女たちの甲高い声が部屋中に響き渡った。
ムイはふふっと笑いながら、分けた花束を花瓶へと持っていく。シバはその後についていってムイに近づくと、耳にそっと唇を近づけた。
「……それって、前にムイが言ってた人だよね?」
花瓶に花を一本ずつ差しながら、ムイはこくんと頷いた。
「でも、その人、領主様なんでしょ? そんな家格の高い人と結婚できるのかしら?」
ムイは、ふるふると顔を振った。
「結婚なんて望んでないの」
「ムイ、」
「ただ、側に居られればそれでいい」
「…………」
「でもだめね。陛下が帰してくれないから」
「だめだよ、行っちゃだめ」
「シバ、」
「ムイは私の歌姫でもあるんだから。どこにも行っちゃだめだよ」
シバがムイの手を握った。
その手に力が入って、シバが唇を噛んで俯くのが見えた。