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安らかに眠る


「ムイは、どうしたんだと訊いているんだ。ローウェン、言うんだ」


「ムイ様は……その、」


言いにくそうに淀んだ口元に視線が釘付けになる。だからだろう、ローウェンがチラと周りを盗み見たのを見逃してしまっていた。後ろには、まだ戸惑いの表情を浮かべている兵士がいる。


「ローウェンっっ‼︎」


「お、お亡くなりに」


「嘘をつくなっ」


リューンは叫ぶと、廊下をずんずんと歩き出す。ローウェンはリューンの後を精一杯、追い掛ける。けれどそれに追いつかないほど、リューンは足を早めていた。


「リューン様、お待ちをっ」


ローウェンが足をもつれさせながら、その後ろ姿を追う。


リューンはとうとう、ムイの部屋の前に到着した。


「ムイっっ」


ドアを開ける。きょろきょろと部屋の中に視線を投げる。すると、ベッドの上に寝かされた人影に、どっと心臓が打った。


寝かせられた身体。両手は祈るように、胸の辺りで組まれている。


そして、顔。


白く薄い布が被せられていて、リューンの心臓が再度、軋んだ。


「ムイ、まさか、ムイ、」


足が震えて、前に出ない。


「……そんなことは、」


そこで、はっと気づいた。


ムイの艶のある黒髪が、銀色の髪にすげ替えられていることに。


「……ムイ、じゃない」


慌ててベッドの側に駆け寄り、白い布を取った。


横たわっているのは、シバだった。


血の気のない青白い顔。閉じられた目。安らかその表情は、すでに生の営みを止めてしまったことを物語っている。


「ど、どういうことだ」


直ぐに胸に耳をつける。分かってはいたが、それが事実なのかを確かめようと、リューンは耳を澄ました。心臓が鼓動していないのを確認すると、リューンの心は途端に濁っていった。


「シバはどうしたのだ? ムイは、どこにいる?」


おろ、と混乱する心を、後から遅れて入ってきたローウェンにぶつけた。


「リューン様っ。少し、冷静におなりなさいっ」


「これが冷静でいられるかっ。ムイはどこにいるのだ、ローウェン、早く言えっ」


「リューン様の寝室に、……」


直ぐにもドアから飛び出して、廊下を走っていく。


胸騒ぎがリューンを邪に支配する。シバの亡骸を見た後ということもあり、リューンの心は否応なしに不安に包まれた。


(ムイ、ムイは無事なはずだ。ムイ、ムイ、)


握った拳は、城へ入る前から震えていた。震えの原因を拒否するためにも、リューンは身体のそこかしこに力を込めていた。


(死ぬはずがない、俺を待っているんだ)


ムイがもし。


自分の元を去ったとしたら。


(……俺は一体、どうやって生きていけばいいんだ)


気がふれるのだろうか、それとも……。


眉が歪む。


(ムイ、お前を失ったら俺は、……俺は、生きてはいけないんだ)


足が。


勝手に走り出していた。

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