悲しみの歌
「恐らく、リンデンバウムの領民の半数以上が、ここにいるはずだ」
目の前の人々を見回して、ハイドは言った。
「あと数回、このようなリサイタルをすれば、完璧にリューン殿を追い出すことができる」
ムイの虚ろな目には歓喜する人々の姿は写りはしたが、その地響きのような歓声は耳には入らない。
斜め前に立つハイドは、観衆に向かって右手を上げて振った。
後ろを振り返ると、ローウェン、ユリアス神父、シバが控えており、けれどその目には彼らの意思は宿っていない。
ムイの真の名の力が影響を及ぼさないのは、ただ一人、ムイが人々に忠誠を誓わせたハイドのみなのだ。
ぽつんと、ひとりの空恐ろしさを感じた。ハイドと二人であろうが、ムイの味方は一人もいない。
孤独ということの恐ろしさ。
同じように、このリンデンバウム城で育ったリューンに思いを馳せた。
(リューン様はご両親も早くに亡くし、そして名を握る力を持つがゆえ、孤独であったのだと聞いていたけれど……)
今、ムイが。リューンが享受してきた孤独感に、苛まれている。
(リューン様もきっと、この恐ろしさに耐えていらっしゃったのだ)
涙が、頬を流れた。
(リューン様はご無事なのだろうか。リューン様に会いたい、会いたくて仕方がない)
自然と歌が口をついて出た。
けれど、その歌は恋人との別れを悲しむ、苦しみの旋律だ。
その惜別の歌を大いに歌い上げると、ムイの目から涙が溢れた。
「リリー=ラングレーの名の下に、」
指先で涙を拭う。
「リンデンバウムの栄誉、領主ハイド様に、皆さんの忠誠と祝福を‼︎」
おおおっと地を揺らすように歓声が鳴った。ムイの歌と相まって、観衆の興奮と感激に、リンデンバウムの空気がビリビリと震える。
ムイが横を見る。
ハイドがこちらを見ている。
口角を上げ、にやと笑うと、ムイに近づいてきた。