謁見
「国王陛下、ご無沙汰しております」
リューンがひざまづいて頭を垂れると、国王シャルルは組んでいた足をほどなくして組み替えた。
シャルルとは、リューンが子供の頃に一度だけ顔を合わせている。その時の国王ははまだ即位したばかりであまりにも若く、そしてさらに若かったリューンにとっては雲の上の存在で、終始緊張して恐れていたことを思い出す。
「リューン殿、息災であったか?」
「はい、」
「ムイと結婚したそうだな」
挨拶もほどほどにこの話題かと思うと、苦笑いしかできない。垂れていた頭を上げて、ひざまづいたままシャルルを見た。
「はい。陛下にもお心を配っていただき、誠に感謝を申し上げます」
結婚の許可状に、シャルルのサインが無かったのをリューンは苦く思い出した。
「リューン殿への許可状をユウリに持たせはしたが、どうやら不備があったようだな。申し訳ない」
口から謝罪の言葉が出てはいるが、その目は冷ややかで冷たかった。
「いえ、それを今日、いただきに参りました」
胸に手を当てる。内ポケットには、以前ユウリから渡されたサインのない結婚の許可状が入っている。
それを出そうとして、制された。
「悪いが、サインはできない」
リューンが手を止めた。途中まで出された紙は、行き場を失ったように固まった。
「何故ですか」
「ムイは俺の歌姫だ」
「楽団は退団しています」
「ああ、それもムイには聞いている。歌を歌えなくなったと。そればかりでなく、真の名も覚えていないとほざきおった」
「…………」
「あれほど目をかけてやったのに」
吐き捨てるようにシャルルは言った。
「とにかく声も名前も取り戻せたのだから、またここの楽団で歌を歌わせる。リューン殿には申し訳ないが、ここは折れてもらわねばなるまい」
「ムイはもう私の妻です。ムイを愛しています」
シャルルに真っ直ぐに向き直って、リューンは力強い声で言った。その様子を見て、シャルルも負けじと声を張った。
「リューン殿がそう言うなら、俺も言おう。同じように俺もムイを愛しているとな」