父親
「シバの客人だからとお通ししたつもりでしたが」
ローウェンが、目の前にいる男の横柄な態度に向かって、ぴしゃりと言う。
けれど、その男には、届いていないようだ。ローウェンの嫌味を微塵も気にせず、どかっと客間のソファに座る。そんな男を見て、ローウェンは直ぐにもぴんときて言った。
「リアン宰相の使い、ハイド様ですね」
「リューン殿から聞いているようだな。それなら話は早い。それならこの男が誰かもわかってるな?」
ローウェンはハイドの傍に立つ、もう一人の男を見た。
どこか、おどおどと落ち着きのない男。すでにハイドに首根っこを押さえられているのが読み取れて、ローウェンは心底、ハイドという男を忌み嫌った。
(虫唾が走るな)
「それで? その男が、ムイの父親だという証拠は?」
「ムイが見れば一目瞭然だろう。これは親切と思って教えてやるが、確認するにはそれが一番手っ取り早いぞ」
ふん、と小さく鼻で笑う。
ローウェンは自分のこめかみに青筋が立っているのではないかと思うくらい、奥歯を噛み締めた。
「リューン殿が居ないことはわかっている。リューン殿が何処にいるか、もな」
「国王陛下の宰相様が、このような卑怯で卑劣極まりない手をお使いとは、ただただ驚くばかりでございます」
「お前の嫌味は聞き飽きた。ムイを連れてこい。父親に会わせてやると言っている」
「主人が不在のため、私では判断致しかねます……と言いたいところですが、わかりました、ムイに会わせましょう。けれど、一つだけ条件があります」
ローウェンが客間のドアへと向かい、ノブに手を当てる。
「父君のみ、ムイに会わせます。ハイド様はどうぞここでおくつろぎください」
「なんだと、」
「今、お茶の用意をお持ちします。どうぞ、おくつろぎください」
二度強く言って、手を伸ばす。ムイの父親だという男を促すと、ドアを開けた。
「リーアム、わかっているな」
ドアから出ようとする背中に、ハイドが声を掛ける。
その言い方もいたく気に入らなく、一層ローウェンの逆鱗に触れた。