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逃げ出して


「……それが、その、」


珍しくローウェンが眉を歪めているのを見て、リューンは机をバシンと叩いた。


「あれから何日経っていると思っているのだっ‼︎」


常に冷静さを保っていて、ちょっとしたことでは動じないリューンが、珍しく昂りを見せている。


(何か、あったのだろうか)


ローウェンがそう思うほど、リューンはイライラと苛ついている。


「それが、自分の仕事以外の時間になると、行方不明に……」


ここ数日。ムイに逃げられている。もちろんムイの勉強もはかどらない。


ローウェンもムイが捕まらないことを気にはしていたのだが、日頃の雑事に追われて、少々放ったらかし気味ではあった。


「どこへ行っているのだ?」

「それが分からないのです。マリアやユリに訊いても知らない、とのことで」

「お前が把握していないというのも珍しいな」

「リューン様、私にも死角はあります」


不服を申し立てると、リューンはふむ、と考え事をする様子を見せた。


「勉強が嫌いなのか?」

「そうではないようですが……」

「とにかく、探して引っ張り出してこい。勉強をしないなら、追い出すぞと脅せ」

「かしこまりました」


ローウェンは慇懃に返事を返して部屋を出ると、廊下の奥へと向かった。昼をとうに過ぎた今の時間。ムイは夕食の支度で厨房にいるはず。


階段を降り、一階の廊下を歩いていった。

厨房のドアをノックし、ローウェンは中へと入った。

もわっとさまざまな調味料が入り混じった独特の匂いが鼻をつく。


「まあ、ローウェン様。いったいどうされました?」


気がついたマリアがエプロンで手を拭きながら、ローウェンの元へと近づいていった。


「ムイはどこです?」


マリアがぎょっとした顔をしてから、慌てて言った。


「てっきりローウェン様との勉強の時間だと……」


すると、厨房が途端に湧いた。


「ムイめ、あいつどっかでサボってやがんな‼︎」

「よっぽど、勉強が嫌いとみえる」

「あはは、ムイらしいなあ」


中年の料理人たちが、口々に笑いながらはやし立てる。

それを聞いて、マリアの顔が真っ赤に染まっていく。


「こらっ‼︎ あんた達がムイを甘やかすからこんなことに‼︎ 申し訳ありません、ローウェン様。今後、こんな事のないようにキツく言いつけますので」


「いいよ、マリア。私から言おう。ムイの居場所を知らないのだね? わかった。では、探してこよう。仕事の邪魔をして悪かったね」


ローウェンが厨房から出ると、中からワイワイと笑い声が聞こえてきた。ムイのネタでまだ盛り上がっている。ムイが皆に可愛がられていることを、このような形で知るとはと、呆れて思った。


ローウェンは、思い当たる場所を手当たり次第に探していった。けれど、ムイは見つからない。夕食の盛り付けが始まる頃には、厨房に戻るとのことだったが、その頃にはローウェンには別の仕事が待っている。


(諦めて、明日にしよう)


リューンの更なる怒り顔が拝めるな、大きな溜め息を吐きながら、執事室へと戻った。


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