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幸福のまどろみ


「……疲れたか?」


ベッドの中で、リューンが手を伸ばしてくる。頬にそっと触れてきた指先の体温を感じ、ムイはこの世とも思えない至福を感じていた。


(リューン様と結婚など、できるなんて思ってもいなかった)


リューンが真っ直ぐに見つめてくるのをぼんやりと見返していると、「はは、ぼーっとしているぞ。目の焦点が合ってない。相当、疲れたのだな」


柔らかさのある声が耳から胸へと入り込む。じんっとその胸が痺れて、次第にとくんとくんと脈を打つ。


確かに疲れていた。


歌を。全身全霊で歌ったのだ。裸足の足を、地面に踏みしめて。


選んだ歌は、楽団に在籍していた時に歌っていた曲の中でも、特に神聖で厳かなものだ。


けれど、盛り上がりを見せる終盤では。段階的にせり上がっていって高音を出す時には、息を大きく吸い込んでも追いつかないほど、高みへと登っていく。


いや、登らせるのだ。


腹に力を込めるのはもちろんのこと、背中の筋肉も意識して使い、両手を広げて胸も開ける。


ムイの声はそんな時、一つの楽器と成った。その一つの楽器を思うように奏でることのできるムイの才能は、他に類を見ないだろう。


だからこそ、人々はムイの歌声に歓喜や感嘆を覚え、そして惹かれるのだ。


それはシバの二胡の旋律と、絡み合っては離れ、離れては絡み合って、美しい一つの曲となり、人々の心へと入り込む。


「お前の歌は、本当に……心から、……心から感動した」


感無量というように、息をつきながら、リューンがこぼす。


「素晴らしい歌声だった。神からいただいた才能だ」


リューンの優しい声を、ぼんやりとした頭で聞いていると、知らないうちにリューンの腕が背中を回って、そして引き寄せられていた。


頭を、広い胸に預ける。


「ありがとうございます。私は、」


眠気が心地よい。ふわりふわりと、意識が浮遊する。


「……私は本当に、幸せ者です」


すり、と胸に頬を寄せると、リューンの匂いがして、ムイはリューンと共にいられることを幸せに思うと同時に、安心もした。


リューンの腕に力が入って、更にぐいっと引き寄せられた。


「ムイ、お前は俺の妻だ。愛してる、どうか、ずっとこのまま俺の側にいてくれ」


「リューン様、」


意識が遠くなる。


「私も愛しています。ずっとリューン様のお側に……」


ほっと、安堵の息を吐いたのを最後に、ムイはそのままリューンの腕の中で眠りについた。


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