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死神の足音


「ムイ様、こちらです」


神父ユリアスに連れられてきた場所は、立ち入り禁止となっているはずの墓地だった。


(どうして、このような所に、)


疑問に思ったが、声を掛ける機会を完全に逸してしまった。ユリアスはそのまま、どんどんと森の奥へと分け入っていく。


(お客様というのは、一体誰なのだろう)


振り返る。


来た道を隠そうとでもするかのように、森の木の枝葉が揺れているような気がして、ムイは不安な気持ちを抱えた。


今頃は、教会で来賓の接待に追われているだろう、リューンとローウェンに黙って出てきてしまい、ムイはそれもあってさらに不安の気持ちに襲われていた。


「ムイ様、お客様がいらっしゃっていますよ」


ユリアスがにこにことしながら、ムイが控え室として使っていた小部屋へと入ってきた。


「お、お客様、ですか?」


「はい、国王陛下のお城、ブァルトブルグ城でのお知り合いとか……何か、楽器のようなものお持ちでしたので、楽団のお方でしょうか」


ムイは立ち上がり、両手を握った。


「シバが誘ってくれたのかしら。もしそうなら、お会いしたいです」


「教会の外で声を掛けられましたが、とにかくすごい人混みなので、少し離れた場所で待っているとのことです。私が案内いたしましょう」


ムイは脱いでいた靴に足を入れながら言った。


「で、では、リューン様にお言付けを」


「私が使いをやりますから、ムイ様は裏口からお出かけください。この裏口からの方が近いので」


「けれど、」


来賓を一緒に迎えるようにと言っていたリューンに黙って行くわけにもいかないと思い、ムイはそう告げようとした。


「大丈夫です、アンドレに頼んでおきましたから」


小間使いの名前を出してから、裏口のドアを開けて促す。


ムイは最初、気乗りはしなかった。けれど、楽団の皆んなに会えるという思いが、その足を動かした。


「一体、どなたがお越しくださっているのでしょうか?」


そのままの歩みで、ユリアスは森へと向かう。


「お名前は名乗られませんでしたが、このような形のものを背中に背負っていました」


手で形を作る。


「マンドリンでしょうか。だとしたら、ウリウリだわ」


ウリウリとは、マンドリンという楽器を奏でる楽師の名前だ。楽団では一緒だったが、あまり喋らない寡黙な男だったので、話を交わした記憶は少ない。


けれど、その腕前は天下一品のもので、シバと引けを取らない実力の持ち主だ。


マンドリンはシバの二胡とは音の性質が違うが、選曲によっては弾き手を交代して、演奏したりしていた。


(シバが誘ってくれたに違いない)


久しぶりに昔馴染みの奏者に会えると思うと、ムイの足取りは途端に軽くなった。


しかもユリアスに案内してもらっているという安心感もあった。その後ろをついて、ムイも墓地へと足を踏み入れていった。


少し行くと、大きな墓が一つ、ぽつんと立っている。その墓の傍に、ぼうっと人影が見えた。


嫌な予感がして、ムイが足を止める。


異様な雰囲気は離れていてもわかり、それがウリウリでないことも直ぐに知れた。


人影がゆらっと揺れた。


その瞬間、背中に悪寒が走った。


立ち姿に見覚えがあった。


地面に引きずるほど黒く長いマントを羽織り、ビロードの帽子を目深に被っている。


確かに背中には大きな荷を背負っており、楽器のように見えなくもない。


ムイは驚きのあまり悲鳴を上げそうになった。


「……は、ハイド様」

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