交わった気持ち
「結婚の許可状にサインがないのですよ。この許可状は無効ですわ」
「許可状など必要ない。国王の許可なんか不要だ。ローウェン、結婚式の準備を進めろ」
ローウェンがしたり顔で、かしこまりました、と部屋を出ていく。
「国王陛下はお許しになりません」
ユウリが食い下がり、リューンが反論しようとした時、「私が、お願いに上がります」と、ムイが言った。
「あなたに何ができると言うのっ」
「何もできません。ですが、真摯にお願い致します」
震えながらも、真っ直ぐに見据えてくるムイの目を見返すことができず、ユウリは部屋から出ていった。
後夜祭の次の日だった。
ユウリは腹を立てながらも、大人しく帰っていった。
「良いのでしょうか」
ムイが心配そうに呟いた。
「大丈夫だ。結婚式は予定通り、執り行う。もう、後悔したくない。早く、お前を妻にして安心したいんだ」
「あ、ありがとうございます」
恥ずかしそうに俯く顔を、ぐっと指で掴むと、半ば強引にキスをした。
「そ、そうだ。ムイ、少しここで待っていろ」
リューンが、部屋の奥に続く寝室へ入っていく。
ムイは手持ち無沙汰になり、ソファに腰掛けてみる。
(一週間後に、リューン様と結婚……)
「わたくし、リューン様と結ばれておりますの。あなたが入り込む余地はございませんわ‼︎」
ムイに向かって投げたユウリの最後の悪あがきに、リューンが激怒した。
「お前を抱いたことは一度もないっ」
そして、リューンが真っ直ぐにムイを見て言った。
「そんなことあるわけない。愛してもいない者を抱くなんて、俺にはできない。できるはずがない」
真実を宿した力強い瞳。
そして、リューンがユウリに対して抗議し、そのぶれない態度にユウリもついには折れて、捨て台詞によってではあるが、全てが嘘だったことを白状して去った。
それを聞いてムイは、心底、胸をほっと撫で下ろしたのだ。
「……こんなことを訊くのもどうかしていると思うが、その、妬いてくれたのか?」
その後、リューンが、おずおずと問うてきた。
ムイは苦笑しながらもそれに答えた。
「私では、ユウリ様に到底かなわないと、思いました」
「俺だって、」
口をつぐむ。少しの沈黙をおいて、リューンは訥々と話し始める。
「……お前が、他の男を愛するようになってしまったら、どうしようかと考えた」
「リューン様」
「嫌われたら、とかそういうことではないのだ。お前の気持ちがあの男に向けられて、俺から離れていくのが怖かった。俺を想う気持ちが冷めて、お前が……お前が、あの男を愛してしまったら、と」
リューンが、目を伏せる。
「あ、あの、男を、」
言葉が続かないというより、続けたくないというように、リューンが呼吸を整えた。
「……これでも、お前を諦めようとしたんだよ。俺といるより、あの男の方がお前を幸せにできるのではないかと思ったりもした」
「リューン様」
ムイは顔を横に振る。涙がぽろぽろと溢れていく。
「私もリューン様を諦めようと、何度も‥…けれど、辛くて……」