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歌を


「……本当に、素晴らしいお方」


声に出ていた。それに合わせてか、周りがさらに囃し立てる。


「リューン様あっ」

「リューン様っ‼︎」


ムイは、人々のその声に涙を零しそうになった。


(リューン様には、お幸せになって欲しい……ユウリ様とご結婚されるなら、どうか幸せな家庭を作って欲しい……)


ぐっと、涙をこらえる。


(でも最後に。どうか、最後に一度だけ)


ムイは唇を噛んだ。そして、それから息を吐くと、ついに唇を開いた。


細い声が。


最初は、わっと興奮した民衆の歓声に、埋もれてしまっていた。


それでもムイの声は、その騒ぎをかいくぐって、人々の耳へと届こうとどんどんと伸びていった。


その声を耳にした人々はひとりひとり、なんだなんだと言いながらも、声を上げるのを止めた。


フードを深く被ったムイが、細い声を発していく。


(……夕暮れに浮かぶ雲はどこへいくんだろう。僕も連れてっておくれ。あの人の元に……)


しん、と、静寂がやってきた。その静けさが、ムイの歌声を際立たせる。


「ムイ、何を……してい、る」


遠目でもそれに気がついたリューンの顔色が、さっと変わった。みるみる青ざめていき、色を失っていく。


「……ムイ、止めろ」


リューンの愕然とした声が、震えて聞こえてきた。


(流れる雲にのって、どこまでいくのだろう。あの人の元に運んでくれるのだろうか……)


何事かと沈黙していた人々が我を取り戻して、一瞬、ざわついた。けれど、すぐにムイの歌声に耳を傾け始めた。


驚きや慄きの顔を浮かべていた人々の表情が、次第に柔和になり、うっとりとしたものに変化する。


それほどの、美しい歌声だった。


けれど。


壇上には、リューンの悲しみに歪んだ顔。


それを目の中に入れながらも、ムイは歌った。


(愛しい人のことを想いながら、僕は生きている……)


カイトやミリア、マリアもその場にいて、ムイの歌に耳を傾けている。が、ムイの目には入らない。ただ一人、視線を交わしているのは、リューンだけだった。


(側にいったら、もう離れないよ。きっと君は、僕の運命だから……)


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