両片想い
「後夜祭にはムイ先生は来ないの?」
「パパ、先生とお約束していないの?」
シノとキノが交互に父親を責め立てる。カイトは困り顔を浮かべながら、双子を両脇に抱えた。
「ほら、行くぞ」
「ねえねえ、パパ。ムイ先生はあ?」
「来るとは言っていたけど、昨日の夜、具合が悪くなっちゃっただろ? だから来るかどうかはわからないんだ」
「ムイ先生はもう大丈夫なの?」
「いや、城に帰っちまったからなあ。大丈夫だとは思うが、」
宙に浮いた足をバタバタとしながら、シノとキノは駄々をこねた。
「パパあ、ムイ先生を連れてきてよっ」
「無茶言うなよ。城の中には入れないんだ」
「マリアがせっかくクルミパンを作ってくれたのに」
「そうだなあ、シノ、キノ。パパもムイに会いたいよ」
そこへ、大荷物を抱えたミリアがやってきて、「ちょっと手伝って」と荷物をカイトへと渡した。
双子を離して荷物を持つと、カイトはミリアと肩を並べて歩いた。
「なあ、ムイは今夜、来るのかな」
その言葉にミリアの足が止まった。隣を歩いていたカイトに向かって、言葉を投げる。
「カイト、あんた分が悪いよ」
「なんだって?」
「ムイのこと。私はお二人を前から見てきたからわかるけど、あれだけ深く愛し合っている二人は、他に見ないくらいだよ」
「リューン様が、ムイを縛っているんだろ?」
ムッとした顔を浮かべて、カイトは舌打ちした。
「違うよっ‼︎」
ミリアが声を荒げたのを、先へと走っていった双子が振り返って見る。
「リューン様はね、ムイを愛しているからこそ、いつもムイの相手が自分でいいのかと、迷っていらっしゃる」
「…………」
「それでね、それは、ムイも同じなんだよ」
はあっと大きく溜め息を吐いた。
「相手を思うばかりに、お二人はいつも迷いの森の中にいる。それでも相手の幸せを一番に願ってるんだ」
「俺だって、ムイを、ムイのことが好きだ」
「けれど、ムイは違うだろ?」
口を噤んだカイトを横目で見て苦笑すると、ミリアは荷物を抱え直して歩き出した。
「誰もあの二人を引き裂くことなんかできやしないんだ」
ミリアの声が薄暗くなった空へと消えていった。