表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

137/205

愛している


リューンは一人、窓辺で佇んでいた。


倒れたムイをマリアの家に迎えに行った時、横になっているムイを心配そうに寄り添っていたカイトを見た。


眠っているムイの額に手を添えている。


その姿を見て、リューンはこらえていたものが、自分の内からせり上がってくるのを感じた。


(この男に、ムイを取られてしまうのかっ)


考えないようにしていたものが、現実として見せつけられて怯む。


「ムイを迎えに来た」


言葉に力が入らなかった。空を掴むように重さのない軽い言葉だった。


自信などというものは、ムイを避け続けていたここ一ヶ月でどこかへ去ってしまった。それまではムイを大切にしてきたつもりだったが、そんな確かなものも、呆気なく崩れ去ってしまった。


するとただ、愛している、という気持ちのみが残った。


(それも俺の、俺だけの独善的な気持ちだったのだろうか……)


ムイが過去にリューンの元を去ろうとしたことが、二度あった。一度目は実際に去り、そして二度目は去ろうとしたところをリューンが押し留めた。


(この男と、結婚した方がムイにとっては幸せなのかも知れない)


ついに、そんな考えが心を染め始めた。一度考え始めたら、それは加速し、全てを覆ってしまった。まるで、侵食されるように、全てを喰らい尽くしていく。


結婚の許可状に、国王のサインはない。


(それでも……そうだとしても……)


「ムイは渡さない」


するっと出たリューンの言葉に、カイトは立ち上がって、リューンを睨みつけた。


リューンは構わず、ムイに近づく。


「ムイ、大丈夫か? どこか痛いところはないか?」


話しかけると、ムイの目が開き、そして腕がそろっと伸びてきて、首に回った。愛しさが、ぶわっとせり上がる。


(ムイ、まだ俺を求めてくれるのか……?)


胸が潰されそうになるのを、きつく目を閉じて我慢すると、リューンはムイを抱き上げた。


「俺はムイに求婚する」


それは、カイトの言葉だった。


振り切るように、リューンはマリアの家を後にした。馬に揺られながら、眠るムイを抱きしめた。


そして、今朝。昨日、倒れたというのに、ムイは起きてすぐに、出かけていった。


そんなにあの男に会いたいのか、と思った。カイトが、ムイに求婚する、と言っていたことを思い出す。


(……いや、何も考えない方がいい、昨日のことは、もう忘れた方が良い)


頭を振って、思考を停止する。考えることを止める度に、溜め息が溢れた。


バルコニーへ出て気持ちを落ちつけようと、ガラス張りのドアのノブに手をかける。


その時、トントンとノックがされたのだ。


ノックの仕方は、ムイのもの。リューンの心臓は一気に跳ね上がっていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ