一縷の望み
「リューン様に好きな方が? まさかっ‼︎」
涙をこらえながら話すと、ミリアが声を荒げて言った。
「そんなはずはないわっ。リューン様に他の女だなんてっ。あり得ない」
「りょ、両想いでいらっしゃるのです」
言いたくない言葉というものは、喉に詰まってまるで吐き出されない。それを無理にも出して言う。
「リューン様に確かめたの? それはその女が良いように言いふらしているだけかもしれないし」
「いえ、確かめたわけでは……」
ミリアがソファから身を乗り出して言う。
「今夜は後夜祭だよ。その前に確かめた方が良い。ちゃんと訊いてごらん」
ミリアの言葉はもっともだと思える説得力があった。
(……まだ、望みはあるだろうか)
一縷の望みにかけてみたい気持ちが湧いてきた。
(後夜祭ではリューン様が町の皆さんの前でお話しされる機会がある)
ムイは立ち上がりミリアに礼を言うと、店を出た。重い足を無理にも動かしながら、城へと向かう。
城に着くと真っ先にリューンの部屋へと小走りで駆けた。
リューンの部屋の前で止まる。ここ一月ほど気兼ねしてできなかったノックを勇気を出して鳴らした。
「入れ」
声がして、ムイは唾を飲んで息を止めると、ドアのノブに手を置いた。