強い意志を持って
「ムイ、ムイ、」
優しく耳に届く声。懐かしい、愛しい声だった。
(これが、夢なら醒めないで欲しい、)
「……ん、」
ぐっと瞑った目に、じん、と痛みが走る。だらりと伸ばしている手に、温かい肌の温度。誰かが、手を握ってくれている。大きな手。包まれている。
(夢でも、)
「ムイ、大丈夫か? どこか痛いところはないか?」
そっと、目を開けた瞬間、すうっと涙が流れていった。
その瞬間。
リューンの心配そうな顔が浮かんだ。
「リューン様、」
腕を上げて、そおっとリューンへと伸ばす。
リューンはくしゃりと顔を歪ませて、ムイの身体をすくい取って抱きしめた。
「ムイ、具合はどうだ? 立てるか?」
そして、ムイをぐいっと抱き上げると、「ムイは、俺が連れて帰る」と強い声で言った。
あまり聞いたことのない力強い声に、ムイは誰に言っているのだろうか、という思いが頭をかすめた。
けれど、愛しいリューンに抱かれていると考えるだけで、他のことはもう考えることができなくなる。
ふわりふわりと浮遊感に身を委ねた。
(これが夢なら、永遠に醒めないで欲しい)
ずっとリューンの側にいたいと願っていたのに、もうそれも叶わない。そんな辛い現実から逃げてしまいたかった。
(リューン様のいない世界など、)
ムイは、リューンの肩口に頭をすり寄せた。
(……もう、考えられない)
ムイは、思った。
(リューン様がユウリ様とご結婚されても、私は決してリューン様の側を離れない)
それが身を引き千切られるような地獄の苦しみだと、容易に想像できたとしても。
(けれど、それでも……)
心の中の涙は、とめどなく流れていく。
(それでも、私はリューン様の側にいる)
芯が通ったような気がした。痛みはあるが、その痛みを凌駕するもの。それは、強い意志そのものだった。