必要なのに
リューンは身体をベッドの上に横たえた。仰向けになって天井を見る。
ふ、と鼻から息を吹いた。笑いがこみ上げてくる。けれど、それは弱々しく、自分では止められない。
(ははは、何という哀れな……俺はもう、必要ないということか)
自分の愚かさに、可笑しみが湧いてくる。
(ふふ、抱き合って、キスまでしたのだと? ああ、そうだった。お前はその男に歌まで歌って聞かせたんだったな。あれほど、歌うことを頑なに拒んでいたのに。そしてそれは……俺のためだと……俺の側にいるためだ、と)
目を閉じる。まぶたの裏。控え目な、ムイの笑顔。
(……俺は……俺はいったいこの先どうしたら良いのだ。お前を失うなんてことがあったら、その時、俺はどうしたら良いというのだ……お前を……他の男に取られるなどと、思いもよらなかった。そんなことは微塵も……)
ぼんやりとした頭で、リューンは考えた。
(……いや、それよりムイは、大丈夫なのだろうか。ローウェンが、ムイが倒れたと、言って、いた、)
現実が引き戻される。
(そうだ、ムイは大丈夫なのだろうか。具合が悪いなら、)
「……俺が、行かなければ」
弱々しい声だった。
「そうだ、俺が行かなければ、」
リューンは、ベッドから身体を起こし、部屋を出た。上着を手に取り、城を出て、馬小屋へと急ぐ。ダリアンに馬を用意させ、それにまたがった。
「俺が行かねばならぬ」
呟く言葉に力はない。けれど、何度も何度もそう繰り返した。
「俺にはお前が必要なのに……」
手綱を握る手に力が入り、馬を促す足にも力が宿る。
リューンは馬の腹を力強く蹴り上げて、駆けた。