慰めたい
「陛下もお喜びになりますわ。陛下はムイ様をとても愛でていらっしゃるのですから」
「わ、私はっ」
「陛下に愛されていらっしゃって、正直、羨ましいですわ。ですから、お互いに一緒にいて幸せな相手を選びましょう」
「リュ、リューン様はっ」
「リューン様はわたくしをお選びになった、ということですわ。とても情熱的に、わたくしを求めてくださいました」
ムイは、自分の顔が真っ青になっていくのがわかった。血の気が引く、ということを今、実感している。
涙が、ほろ、と落ちた。同じように言葉が溢れ落ちる。
「……けれど、私はリューン様のお側に」
「邪魔なのよっ‼︎」
ユウリは声高に言い放った。早朝の廊下だということと、ローウェンを警戒してか、声をいくらか低くして続けていった。
「邪魔をしないでいただけますか。わたくしとリューン様は愛し合っているのです」
「…………」
次から次へと、ぽろぽろと溢れていく涙を頬に感じながら、全身から力が抜けていくような感覚に陥った。
そしてそのまま、ムイは座り込んでしまった。廊下の床の冷たさでなく、中心から少しずつ凍っていくような寒さに身震いする。
「心だけでなく身体も結ばれたのだから、ムイ様、あなたはどこかへ去っていただかないと」
ムイを冷ややかな目で見下ろしながら、それだけ言い捨てると、ユウリは立ち去った。
「どうしよう、どうしよう、どうしよう、」
自分でも知らないうちに、ムイは何度も呟いていた。
涙がとめどなく溢れてくる。
「どうしたらいいの……」
そのまま、うな垂れるしかなかった。涙が廊下の絨毯を染めていく。
「ムイ先生っ。僕たちがいるからね」
「僕がお花をたくさん持ってくる」
その声で我に返る。気がつくと、カイトやシノキノの腕の中で涙を流していた。
知らぬうちに唇をぎり、と結んでいた。けれど、感覚は麻痺していて、痛みはない。
「ムイ」
カイトのその声で顔を上げた拍子に、涙が散った。
「ムイ、誰が君を泣かせているんだ。俺に話してくれ。何だっていい、何があったか教えてくれ。君の力になりたい」
「う、」
抑え込んでいた感情が、ぽろりぽろりと剥がれ落ちて、裸になっていく。
「君を慰めてやりたいんだ」
腕にそっと力が入る。
頬に。カイトの頬が重ねられた。
「泣かないでくれ」
耳元でそっと囁かれ、ムイは声を吐き出した。
「うう、ん、うぅ、」
背中が小刻みに打つ。その背中を、カイトの大きな手が抱きしめながら、優しくさする。
そして、頭をぐっと抱かれ、カイトの広い胸に押しつけられた。髪にキスをされたような気がしたが、ムイはそのまま泣いた。