天秤
「ムイっ」
リューンは立ち上がり振り返ると、ガゼボを回り出て、人影に近づいた。
「……リューン様、わたくしでございます」
リューンが手にしていたランタンを掲げ、その灯火に照らし出されたのは、ムイではなく、ユウリだった。
ユウリに対しては昼間の急転直下な出来事のこともあり、国王の許可状を持ってきたというだけで友好的だった気持ちが、今はもう正反対へと傾いている。
「どうしてここへ来た?」
冷たい声。リューンは自分の耳に入ったその声に、驚かない。それはリューンの気持ちを代弁するかのように、嫌悪の意を含んでいたからだ。
「何をしに来た?」
さらに冷ややかに言い放つ。
ずいっと前へユウリが出て、リューンとの距離が縮まった。ランタンに照らされるユウリの身体は、薄い絹衣、一枚だった。
薄く透ける肌。身体の線が艶めかしく動く。
「リューン様、取引きをさせてください」
顎を上げ、瞳は真っ直ぐにリューンを見据えている。自信に満ち溢れた表情。
そのユウリの迫力に呑まれ、リューンは一歩、後ろへと退がった。
「わたくしが国王陛下のサインをいただいてきましょう」
「なに、それは本当か?」
「そのかわり、わたくしを一度だけ……」
絹衣がまとわった両の腕が、すうっと伸びた。それはリューンの頬を掠めて、首の後ろへと柔らかく回された。
「一度だけで良いのです。リューン様のものに」
バラの香りがふわりとたつ。押しつけられた身体は、弾力があって柔らかい。
リューンは黙った。そして、回ってきた腕をそのままにさせ、解かなかった。