月の光のたもと
(結婚の許可も……泡と消えてしまった)
暗闇の中、リューンは空を見上げていた。向こうに見えてくるのは薄っすらとした白い屋根。この夜、リューンはガゼボに引き寄せられるように歩いてきた。
(……では、どうすれば良いのだ。もう何も確かなものはない。国王の許可だって……)
見上げたまま、ははっと、息を吐く。自嘲が混じる、腑抜けた笑い。
(いや、わかっている。国王の許可にムイを縛る効力など、最初から……)
無いにも等しいのだ。
リューンは首を伸ばし、ガゼボの屋根より顔を出して、夜空を見上げた。ちかちかと光が瞬いて、星々がその存在を指し示す。
「月が、」
雲が少しでもかかっていると、ぼんやりとした表情を晒すが、今夜のように晴れた空では、煌煌として透明な光を放っている。
(その透明さが、ムイの肌に似ている。ムイの肌は、月の光のような美しさで、)
「……綺麗だ」
呟くと、ずっと上を向いていたためか、首の後ろにつきんと軽い痛みがあり、顔を元に戻す。そして、もう一度深いため息を吐いた。
その時、サクサクと背後で草を踏む音がして、リューンの胸が鳴った。
「ム、ムイか?」
このガゼボは、ムイとの思い出が溢れている。その思いと淡い月の光がリューンをそれがムイ本人であることの確信へと導いた。
「ムイっ」