表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

126/205

結婚の許可状は



「なに、」


ユウリが何を言おうとしているのか、わからなかった。


リューンは眉をひそめ、怪訝な顔を浮かべると、ユウリに問うた。


「それはどういう意味かな? なぜ陛下が関係してくるのだ?」


ユウリは、フォークに刺してあった魚を行儀よく口の中に入れ、白ワインをちびりと飲むと、「ムイ様が陛下の元へ帰られるというお話です」と、躊躇なく言った。


リューンはますます眉をひそめた。


「何を言っている。ムイは国王の元へなぞ、戻らん」


持っていたワイングラスを、カチンと音を立てて置いた。艶のある白色の液体がゆらゆらと揺れている。


「その件につきましてですが……陛下はムイ様と過ごされるお時間をご所望でございます。今でもムイ様をいたくお気に召されていて、手元に置きたいと、ずっと心の内でお思いになっておられるようです」


「だが、ムイは俺と結婚するのだぞ。許可状も……」


少しの沈黙の後、リューンが立ち上がった。その拍子に、グラスがカタンと倒れた。テーブルクロスに、みるみる染みが広がっていく。


「許可状は偽物か」


「偽物扱いとは、酷いですわ」


「どういうことだ」


「許可状は本物です。ただ、」


リューンはテーブルの上で握り込んでいた両手に力を込め、ユウリの次の言葉を待った。


「サインが入っていない、ということです」


「なんだとっ! この結婚を許してもらえたのではないのかっ?」


今度は、ユウリが立ち上がった。膝に置いていたナフキンが、するりと床に落ちた。


「そのように、みなさまに祝福されないようなご結婚で、幸せになれますでしょうか?」


「あなたには関係ない。それに、みなに祝福などされなくともっ!」


「ですが、ムイ様はどうお思いでしょうか?」


騒ぎを聞きつけて、ローウェンが隣の給仕室から飛び込んできた。


「リューン様、落ち着いてくださいっ」


「ムイは、……ムイだって、幸せになれる。俺が、幸せにしてみせるっ!」


ガタ、とイスが音を立てた。リューンが睨みをきかせて、ユウリに強く言葉を放った。


「ユウリ、今すぐ戻ってサインをもらってくるんだ!」


「リューン様!」


ローウェンの声がぴしゃっと落ちた。


「お部屋にお戻りください!」


ローウェンがイスを引いて、ガタンと倒した。リューンの背中と腕を掴み、強引に動かそうとする。


リューンは怒りで我を忘れて何も考えられなくなった頭をもたげながら、ローウェンのそれに促されて、部屋から出た。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ