策略
「陛下にはしてやられたよ」
ローウェンが、庭師のアランにぼそりとこぼした。アランは持っていた箒を下ろすと、それを杖のように立てて、両手を上に乗せた。
城の裏手にある蓮の畑の前で、二人は話し込んでいる。
「よほど、ムイを取られたくないようですね」
「ああ、国中で人気の歌姫だ。歌が歌えないとはいえ、手離したくないのだろう」
「そりゃあ、ムイって女を知ってしまったら、もう……」
「お前もその一人だったな」
ローウェンが苦笑しながら、手元の書類をパンっと叩いた。アランも苦く笑う。
「結婚に関してはこうも準備は整えてあると言うのに。うまくいかないものだな」
「その使いの女は、リューン様に取り入ろうと?」
「もちろんだよ。色気をプンプンと振りまいている。女がリューン様に取り入って二人がくっつけば、ムイが邪魔者扱いされるだろう。そして、ムイが追い出されたところを陛下が引き取る、という寸法さ」
「そんなにうまくいかないよ」
「まあ、リューン様がムイを手離すはずがないからな。多分、見向きもしないだろう」
「だろうね」
二人は一通り話をすると、各々の仕事場へと戻っていった。
しかし。
二人はそう楽観していたが、実際はその通りにはいかなかった。