字も読めず、話もできず
「ムイ、字は読めるの?」
侍女のユリが顔を近づけてくる。ユリが顔を近づけた分、あごを引いて顔を彼女から離すと、ムイはふるふると顔を横に振った。
「そっか。喋れないし、字も読めないってわけねー」
「…………」
ムイが、こくっと頷く。その様子を見て、ユリは止めていた手で、洗濯したタオルを手早く畳み始めた。
「こうして、こう。フチとフチはピッタリと合わせてー」
ユリが教える通りに、ムイもタオルを折っていく。折り目をきちんと合わせていくと、ユリがその器用さを褒める。
「そうそう、上手ー。でもまあ、あんたはすぐ、マリアのところに行かされるんでしょ。ここの仕事、覚えたって何の役にも立ちゃしないわね」
その言葉にムイはふるふると顔を横に振ってから、山盛りになっているタオルを一枚、引き抜き畳む。
「マリアは歳が歳だからさ、ちょっと気難しいとこあるけど、一生懸命やれば、わかってくれる人だからさ。大丈夫だからね」
独り言のように呟きながら、ユリがタオルの山を減らしていく。
「しっかし、あの気難しい旦那様があんたの面倒を見ろ、だなんてねえ。ローウェン様にも、勉強を教えてもらうんだろ? あんた運が良いよ」
「…………」
ムイが、唇を噛んで複雑そうな顔を浮かべる。
「なによ、なんか不満なの?」
ムイが慌てて首を振ると、ユリも不満そうな顔をして、タオルをぎゅっとカゴに押し込んだ。
「この不景気に仕事もらえるだけでも幸せなのに、勉学の面倒まで見てもらえるだなんてねぇ。感謝しなよー」
うんうんと何度も頷くムイを見て、ユリも満足げにタオルを畳み続けた。