幸せな日常
「このようなもの、みな様のお目に届くような場所には……」
「いや、これは客間に飾るべきだ。アランも目を丸くしていたのだから間違いない」
「それは、アランたちが、甘く採点してくれているだけです」
ムイの手がリューンの腕を掴むと、リューンが足を止めてくるりと後ろへと回り込み、あっという間にムイを抱え込んでしまった。
「リューン様、どうかそれを廊下にお戻しください」
抱えられながらも、嘆願する。
「いや、これは客間に飾るべきだ」
そんなやりとりをしていると、廊下の遠くの方から、ローウェンの声がした。
「昼間っから、何をいちゃいちゃしているんですか」
リューンが右手に額縁を、左手にムイを抱えながら、ずかずかと歩いていく。
「ローウェン、これがいちゃいちゃしているように見えるのか?」
ローウェンの大きな溜め息の横を通り過ぎて、リューンは客間へと入った。
「大切なお客様に、リューン様のセンスを疑われては困ります」
抱えていたムイを下ろすと、リューンは額縁を客間の壁に飾り、持っていた釘を打ちつけた。
「リューン様、どうぞご勘弁を……」
ムイがリューンの前へ出て、両手を広げ、身体で絵を隠す。そのムイの身体を、リューンはひょいっと抱えると、「ムイ、やはりローウェンの言う通りにしよう」
そしてそのまま自室へと連れ帰ってしまった。
ベッドの上にごろんとムイを下ろすと、リューンもその隣に転がった。
「リューン様、どうかあの絵を廊下に、お戻しください」
ムイが何度も懇願する。
「まったくお前ときたらこのような状況で、まだそれを言うか?」
リューンがムイの頬にそっと手を伸ばす。リューンの手の温度を感じると、その温かみを堪能するように、ムイは目を瞑った。
「早くお前を俺だけのものにしたい」
結婚の意向は、国王にも伝達済みだ。
リューンはワグナ国王の私有地、森の奥に住まわされていた家よりムイを連れ出す際、国王へと書簡を出している。
そこにムイを自分の婚約者として、リンデンバウム城へと帯同する旨、記述したのだった。
リューンからしてみれば、ムイを連れ戻すのにも正式な手順は踏んでいるし、後は国王から正式な許可を得て、式を挙げるのみと思っている。
リューンはムイの腰を引き寄せると、耳元で囁いた。
「ムイ、愛している」
結局、ムイの作った押し花の絵画は、そのまま客間に飾られた。